最近の『チコちゃんに叱られる!』が鼻についてきた?

テレビ

高橋秀樹[放送作家/発達障害研究者]

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NHK『チコちゃんに叱られる!』が、最近、鼻につく。

うっとうしくていやな感じがする、どうも気に入らない、いじましい匂いが鼻に残って離れない。理由は四つ。

理由を述べる前に前段。筆者は番組の開始当初から『チコちゃんに叱られる!』のファンであった。制作しているのが同種番組『トリビアの泉』(フジテレビ)の主要スタッフが異動した先のフジテレビ子会社FCC(フジクリエイティブコーポレーション)だとは知っていた。だが、それさえも、まだ生命を長らえていた『トリビアの泉』を唐突に終わらせられたことへの意趣返しだと感じて好ましかった。さらに、岡村隆史のキャラクターをよく知っていて起用法が上手かった。岡村は優れたコメディアンだが「受け」と「回し」が下手で苦手である。スタッフはそれを補うために木村祐一を起用した。木村はNHK的見た目をしていないので、実物CG合体キャラ5歳児のチコちゃんにした。うまい。さすがNHK、金もある。もちろん取材の中味は『トリビアの泉』仕込みの徹底ぶり。諧謔に満ちていてすばらしい。ところがである。

鼻につく理由1。

番組パロディが頻繁すぎる。こういうモノは、刺身のツマに時々やればいいのであって、大根の飾り切りを毎回これ見よがしにメイン料理として出されても嫌になる。2月19日(金)の放送では、屋外のスケートリンクの凍らせ方を『ドキュメント72時間』の真似でやっていたが、真似していること自体が、もう鼻につく。凍らせ方を見せたいのか、もじりを見せたいのか訳が分からない。何だが、企画提案会議の様子さえ、目に浮かんでくる。

企画提案するディレクター(以下提案D)「スケートリンクはどうやって凍らせるか、というのはどうでしょう」

企画採用担当P(以下採用P)「そんなの、水撒いて凍らせるんじゃないの。ニュースでやるじゃん、お寺の境内にスケートリンク張りましたとか。」

提案D「さすがっすね。Pさん知ってましたか」

採用P「褒めても、ダメ。次いいの持ってきて」

提案D「ちょっ、待ってください。これをね、『ドキュメント72時間』をパロって、やるんすよ」

採用P「パロってか。そこまで考えてあるなら、先に言ってよね。パロディなら、面白いんじゃないの。ねえ(下請け会社Pに声を掛けて)〇〇ちゃん」

下請けP〇〇「そりゃ、Pさん、OKなら。Pさん、はずしたことないですから。じゃあ、飲みに行きますか。十番にね、いいとこあるんすよ」

筆者は爺ジジイだから、セリフが古いかも知れないが、内容は大体あっているだろう。出来たリンクを最後にすべるディレクターが転ぶことは予想が付いた。『ドキュメント72時間』風なレーションをしてくれた吹石一恵さんが「すべれてないやんか」と、おとしているところだけは、往時の『チコちゃんに叱られる!』思い出しよかった。

[参考]NHK「チコちゃんに叱られる」は人間の負の感情も満足させる

鼻につく理由2。

「私は流されない 唯我独尊ゲーム」がつまらない。芸能人が遊んでいる様子をただ流している番組ではないところが『チコちゃんに叱られる!』の真骨頂だったのに。これはまさしくただ芸能人と遊んでいる、僕が嫌いな『マジカル頭脳パワー」である。番組の趣旨と何が関係があるのか。知らない人に、このゲームを説明する。

「ある言葉から連想される言葉を次々と言ってつないでいく連想ゲームの逆です。連想しない言葉つまり 前の人が言った言葉と全く関係のない言葉を言わなければならないゲームです」

始まり。

「唯我独尊ゲーム!イェ~イ!」

「せ~の チコ チコ チコ チコ!」

「ドーナツ は 走る。」

「チコ チコ チコ チコ!」

「走る は 靴下×」

というゲーム。筆者は、「チコ チコ チコ チコ!」が聞こえてくると、「イラ イラ イラ イラ」するのでトイレに行く。

これを番組に関連づけるなら、こうするのはどうだろう。

「『唯我独尊ゲーム』で、間違ってしまうのはなぜか?」

チコ「人間の記憶は意味ネットワークで出来ているから」

意味ネットワークとは、ある特定の単語からの連想語や、一連の会話のなかにおける単語や動詞、目的語などのつながりのことを言う。つまり、記憶は使いやすいよう(早く思い出せるよう)に(以下例)ネコ→ほ乳類→クジラ→海のようにつながっているのです。これはそこら辺の心理学者なら誰でも答えられますから、後は調べて下さい。

コロナでロケする時間がないなら、放送時間を短縮すれば良い。東京本局の意向が、全国隅々まで行き渡るNHKなら可能だろう。同じくコロナ対策の一環では、働き方改革のコーナーが優れていた。CG チームが休みを取れるようにNHKの持っている素材VTRで構成するコーナーで、チコちゃんの後ろ姿しか映らない。

働き方改革は「子育て支援や社会保障の基盤を強化し、それが経済を強くするという新たな経済社会システム創りに挑戦する」というのがお題目の「働き方改革関連法案」の基礎となる考え方。労働者側には一見ありがたいこの考え方を実現するとの主張だった。だが、世の中からは、現在の労働力不足を補うために子育て中の世帯や介護中の世帯からも労働力を集めよう、出生率を上げて将来の労働力をできるだけ減らさないようにしよう、という経営側の狙いが見え見え。正体は「働かせ方改革」ではないか、と評判が悪い。それを利用して、NHKでは正面からは出来ない「働き方改革関連法案」を批判しようという狙いも込められていたように見えて、大変好ましかった。それに比べて……という話だ。

鼻につく理由3。

最後のチコちゃんと岡村のダンスがあざとい。よく、野球のピッチャーに「ボールを置きに行ってはいけない。打たれるぞ」と注意するが、このダンスは二匹目のドジョウ、三匹目のドジョウを狙って置きに行った企画だ。売りたいことが見え見えで新しい武器が次々登場する戦隊ヒーロー番組のようにあざとい。最近の視聴者は賢いからこういうあざとさには騙されません。

鼻につく理由4。

NHKの番組宣伝キャスティングが多すぎる。『チコちゃんに叱られる!』に出て宣伝したいドラマや。バラエティ番組は多いだろうが、番組が出してくるゲストは二線級と決まっている。こういう夾雑物を民放では昔、編成局がブロックして、本線の番組を守ってくれたものだ。でも最近の編成は何が番組にとって力になるかを判断できないので、自らねじ込んできたりする。編成の力を間違って使っている。

筆者は、民放とは一線を画す『チコちゃんに叱られる!』を支持していたのだが、いまや「ブルータス、お前もか」である。

 

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