<「ドラゴン桜」と発達障害>ドラマに描かれる発達障害をチェックする

高橋秀樹[放送作家/発達障害研究者]

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筆者は、ドラマなど(映画、バラエティなどエンタテインメント系の作品は、すべて含む)で発達障害が描かれているという情報を得ると、できうる限り自分の目でチェックしてみることにしている。

『ドラゴン桜』を見たのも、健太という発達障害の役柄が登場していると聞いたからだ。さて、見た感想を発表する。ところで以前、チェックするという言い方が上から目線で偉そうで気に入らないとおっしゃる方がいた。だが、実態は「チェックする」が最もふさわしい言い方なのである。

と、ここまで書いてもう一つのことに気がついた。「である」「だ」という文体で言い切ると「お前は何様だ」というお叱りを例外なくいただく。というわけで、以下文章は「です」「ます」に切り替えますが「一体僕は何様か」について答えておきます。

放送作家という仕事を50年近くやっているので、エンタテインメント界内部の人間です。テレビ番組について、人並み以上の経験と知識はあるつもりです。更に北陸先端科学技術大学院大学博士課程で、発達障害者が世の中でどう理解されているかについて研究を続けているので、その研究者であるとも名乗っています。

もちろん、医者ではありませんから、発達障害のなこの一体どの病態なのか、診断名をつけることはできません。しかしながら、少なくとも「発達障害において、今現在多くの専門家が認めている障害像」については、普通の人より詳しいです。

さて、なぜこんな回りくどい言い方をしなければならないかと言うと、発達障害で正確にわかっていることは実に少ないからです。正確でない間は曖昧にしておいたほうガいいと思うことも度々あります。

とはいうものの、全くわからないとチェックの仕様もありませんから、多くの人の賛同を得ている発達障害の状態像を目安としています。

*社会的な関わりについて問題が発生するケースが多い。

*限局的なこだわりがある。

この2つです。それがドラマの中で適切に描かれているのかが、筆者のチェックポイントです。これは正しいかをチェックするのではありません。間違っていないをかチェックして文章で懸念を表明するというやり方です。

ところで、あなたは健常者ですか?

健常者だというなら、あなたたち以外は障害者ということですか。この健常者という概念はおかしくはありませんか。そこで発達障害者に似たイルツする概念として、それ以外を「定型発達者」という言葉が考えられました。(本来は逆ですね「定型発達」と言う言葉が先にあってそれに対立する概念として発達障害』が生まれました)

でも定形とは反対のフィールドにいる人は「非定形」なのか、とう疑問も出てきます。どちらが定形で、どちらか非定型なのか、そもそも定形と決めつけてよいのか、そんな考え方から、いわゆる健常者のことを「平均発達者」と呼ぼうという動きも出てきます。世の中は「発達障害者」と「平均発達者」に二分されるということです。

「障害」は「障碍」で、いや「障がい」と書いたほうが良いなどの議論も又べつのところで起こっていますが、筆者はこれはどれでも良い。あまりに不毛で感情的な問題だからです。

ちょっと話がずれてしまいました。

話しているうちに話題が違う方向に飛んでいっても「平均発達者」は付いていけるが、付いていけないのが「発達障害者」の特性という面もありますね。すでに話題が変わっているのに気が付かない特性を持つ発達障害者の役柄。これを見事に演じられる人はそういないと思います。難しいお芝居です。日本人では二宮和也くんが上手です。中居正広くんはあまり上手ではありません。

「変わる話題に必ず遅れるやつ」は、いくらでもコントにできる面白い設定です。筆者は、これを「発達障害者を笑い者にして」などと、マイナスチェックをしたりはしません。これは、特に誇張しすぎてはいない、掛け値をしていない発達障害あるあるだからです。

反対に、こういう描かれ方もあります。

ドラマの中で、発達障害者が触法事件を起こします。皆が目を背ける陰惨な事件でした。主人公の刑事が「発達障害と犯罪に直接の関係はない」と言訳をした上で、「しかし、この子どもの特性が、自らを犯罪の世界に引き込んでしまったことは否めない」とセリフを言ってエンディング音楽。これにはチェックを入れさせてもらいます。

主人公の刑事は間違ったことはひとつも言っていません。でも、見る人に「発達障害と犯罪は(なんらかの関係)があるんだ」という強い印象を埋め込んでしまっています。早合点の視聴者が「発達障害と犯罪には(直接の関係)がある」と誤解してしまいます。(なんらかの関係)から(直接の関係)の道のりはごく近い。それがエンタテインメントの宿命、誇張の怖さです。デフォルメなどという言い方は、逃げるためのまやかしです。

ドラマ(フィクション)だし、いちいち文句を言う話なのか?というご忠告もいただきます。でも筆者はドラマだからこそ、チェックは厳しくせねばならないと思います。

ドラマで医療物や発達障害を扱うときは、医療監修のスタッフが採用されます。医者やときに臨床心理士(今は公認心理師という制度もできました)が雇われます。台本に間違った点がないのか点検します。間違うと恥ずかしいですから。

 

このシステムが、たいへん発達しているのが、エンタテインメントの国アメリカです。UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)には、医療コミュニケーションという娯楽作品に対し積極的な提言・研究をしている研究科があります。教授が来日したときに話を聞きに行きました。彼女の話によれば日本と同じように出来上がった脚本の点検もしますが、企画段階での相談も受け付けるそうです。例えば、

・・・全健忘の人が出るドラマを作りたいがどうすればいいか?

「全健忘はやめたほうがいい。めったにいませんから」

・・・じゃあ、都合悪くなると忘れちゃうというような病気は?

「そんな、都合に良い病気もあるもんですか、あれ、ちょっとまってください。ボルチモアの病院のデータベースから、一つ例があがってきました。もう少し深くサーチしてみます」

というような感じだそうです。さすが映画の都ハリウッドにある大学です。

医療コミュニケーションではもっと深い計画も進行中で、ある病気を中心にしたドラマ企画を、医療コミュニケーション学科自らが行い、制作会社に提案、企画を買ってもらおうというのです。ドラマで正しい医療情報を伝えることは、伝わりやすイ反面、間違って伝わってしまう危険もあります。だが後者がおこらないように注意すれば、大変有用な情報伝達方法だと考えている、とおっしゃっていました。

さて、多くの日本人の発達障害理解は1988年の映画『レインマン』(Rain Man)に始まるのではないか。ダスティン・ホフマン演じる自閉症者レイモンドは、4桁の掛け算や平方根を瞬時に言い当てるなど数字に強い天才。この役が、つまりはレイモンドの役が自閉症者を演じる芝居として最高峰だったが故に、それが自閉症のティピカルだということにとなって日本中に喧伝されていきました。知的能力は低く、特殊能力を持つ。このイメージも代表的な自閉症のスタンダードになって日本中を席巻します。

一般の人は、発達障害のような難しい情報の多くをテレビなどのエンタテインメントから得ます。学術論文を熟読吟味して情報を得るケースは極めて少ないでしょう。

[参考]ドラマ「ドラゴン桜」で描かれる発達障害者は普通ではない?

画面に正対して、全治前例でドラマを見るわけでもありませんから、ここで何気なく描かれている偏った情報には注意が必要なのです。重要な情報がお気楽な理解で伝わっていくことは阻止して置かなければならないと思うのです。特に、テレビは部分を切り、部分をアップにすることにおいて大変優れたメディアなので。より注意が必要だと思います。

そんな中で出会ったのが『ドラゴン桜』の「ある特定の技能にだけ、天才的に優れた能力を持つ発達障害者」をフューチャーしたものでした。こういう人を一人登場させてしまうと、その強烈な印象が残って「発達障害の人って天才なんだよね」というような短絡的な理解に変わって伝わってしまいます。多くの人は特殊な能力など持たないのに。です。

筆者は、その卓越した能力が、嗅覚だという発達障害者を知っていますが、「警察犬のマネならできるよ」と笑って筆者に言いました。

戦隊ヒーローものや、仮面ライダーに発達障害者のキャラクターをひとり入れてもおかしくない時代はやってきているようですが、今のところ入れないのが賢明です。仮面ライダー・アスペルガーやウルトラマン・スペクトラムが縦横無尽に活躍できる日は来るのでしょうか。考えればすぐわかりますが、知的障害が重い自閉症スペクトラム者と、特異な才能をもっている自閉症スペクトラム者では、どんな支援をするか、どんな悩みがあるか、正反対ほどに違います。

前者は親なきあとの福祉はどうなるかが一番の問題だし、後者はなんとか就職して自立したいが人間関係を築くのが下手で通うのが不安だとの悩み、これほど違うから、どちらか一方だけに偏った発達障害理解が進むのは良いことではないのです。

スーパースターが続々登場するとして有名なアメリカの幼児教育番組『セサミストリートに、2015年から自閉症をもつ女の子のキャラクタージュリア(マペット)が登場しました。ごく当たり前に隣りにいる女子としてジュリアは登場して笑いをふりまいています。『セサミストリート』のコンセプトは”Sesame Street and Autism: See Amazing in All Children”「セサミストリートと自閉症:すべての子どもは素晴らしい」です。

反対に「発達障害は治る」などと言って、親を煽る番組は最低です。そういう番組を見てしまった親にはこう言うことにしています。

「発達障害は治りません。そもそも治る治らないの問題ではありません。いいことに発達障害は発達します。治らないけど発達します。ものすごくゆっくりだけど、必ず発達します」

最後に、発達障害(両方とも自閉症スペクトラム)を描いて優れて面白く、優れて正確なドラマを2つ紹介しておきます。

『シンプル・シモン』(Simple Simon)アンドレアス・エーマン監督

『ビッグバン★セオリー ギークなボクらの恋愛法則』(The Big Bang Theory)マーク・センドロウスキー監督

 

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