<試されるテレビ界の“底力”>タモリ・たけし・さんまに匹敵するスーパースターは現れるのか?

エンタメ・芸能

藤沢隆[テレビ・プロデューサー/ディレクター]
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我が国は、1996年2月に司馬遼太郎を、それから1年とたたないうちに藤沢周平を失いました。その数年前には池波正太郎がこの世を去っており、池波、司馬、藤沢の3人を失って時代小説は完全に一時代を終えたと感じたのは筆者だけではなかったと思います。
時代の変わり目は必ずやってきますが、新しい力が古いものを凌駕して変化して行く場合と、古い者が衰えて新しい力にその席を自ら譲る場合があるように思います。時代小説の3巨人の場合は、亡くなる前後にこの3人を越える鮮烈な書き手が現れたとは思えず、死をもってその場を後進に譲ったのだ思います。
テレビ界のトップランナーたちも何年か、あるいは十数年かごとにその新陳代謝をくり返してきました。そして2014年の今また時代変化の時を迎えたようです。
タモリはこの3月に32年間・8054回続けた『笑っていいとも!』を終了させました。明石家さんまは22年続いた『さんまのスーパーからくりTV』をこの9月7日に終えました。そしてビートたけしは『テレビタックル』がゴールデンから深夜に移行、『ニュースキャスター』では衰えの目立つギャグを封印するかたちに変わりました。ここのところとみに口跡がはっきりしなくなったこともあって、テレビタレントとして昔日の輝きは衰えています。
もちろんテレビの3人は時代小説作家3人のように亡くなったわけではありませんから、トップランナーのポジションからは降りはじめても別の場所に新たな居場所を作るのだと思います。
タモリ、さんま、たけしは、私の印象では、それぞれがその才能と個性でそれまでのトップランナーを凌駕してのし上がり、生き残ってきた3人だと思います。しかしながら、いま起こりつつあるテレビシーンのトップランナー交代では、新しい力が彼ら3人を凌駕しはじめたことで起きた時代変化とは言えないような印象です。
次に続く才能としては、ダウンタウン、とんねるず、ナインティナイン、SMAP、有吉弘行、上田晋也、今田耕司、加藤浩次、田村淳、千原ジュニア、安住紳一郎、宮根誠司、その他、たくさんの名前が思い浮かびますが、どうでしょうか? 3人の域に達するまでの可能性を感じることができる人はいるでしょうか。
落語界で文楽・志ん生が亡くなった後、円生がつなぎ、志ん朝、談志がひとつの時代を作りました。しかし、志ん朝、談志の亡き後、落語にそれなりのブームは来たものの、文楽・志ん生・志ん朝に匹敵するような新たな時代を背負うスーパースター噺家を生むだけの力がその落語ブームにはあったのかどうか。
テレビの世界でタモリ、さんま、たけしのビッグスリーが一歩引いた後に彼らに匹敵する、あるいは凌駕するスーパースターは現れるのでしょうか。それはテレビにメディアとしての勢いがあればすぐにも現れるでしょうし、もしテレビがその勢いを失っていたら、なかなか3人のようなスーパースターは生まれないような気がします。
そういう意味では、試されているのはタレントさんたちばかりでなく、テレビ界の“底力”なのかもしれません。
 
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