<決定版・欽ちゃんインタビュー>萩本欽一の財産⑪萩本欽一の師匠は鳩


高橋秀樹[放送作家]

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これまでのインタビューはこちら

大将(萩本欽一)が言う。

「僕の師匠は、しいて言えば鳩だなあ」

もちろんこれは大将の諧謔で、「鳩をよく見ろ」。鳩だけでなく何でも観察しろということだ。僕は今大学院で、行動分析学というのを学んでいるので、実験対象として鳩を観察し続けたスキナーという学者の話をする。

「そのスキナーは鳩を観察して何を発見したの?」

「箱にお腹の空いた鳩を入れ。ブザーが鳴ったときボタンを押すと餌がもらえるようにしておくと、餌がなくてもブザーの音に反応してボタンを押すようになることなんかです」

「で、人間にもその方法は応用できると」

「ふうん、それコントの設定だな、ツルハシ持つと上手に走れるマラソンランナー」

「まあ、そんなもんです、大将は鳩を見て何を」

「ベランダで、餌付けしてたら、鳩が来るの、あいつら餌よりまず怯えが先。一度エサまで近づいてきて、食べないで去る、食べたら、食べてないよっていう知らん顔する。トタン屋根の上なんで滑ってコケるわけ、こけたらどうする、水待ったってあたりを見回すかって言うとそうじゃない、また知らん顔する。電車に飛び乗ろうとして直前でドアが閉まったら、人間はどうする?うろたえる?それより先に知らん顔だって、鳩に教えてもらったの」

「なんでもよく見れば笑いが発見できると」

「そうそう。公開番組ってお客さんを入れるでしょ。その時お客さんをちゃんと観察するのがADの役目。前説やるでしょ」

前説というのは、本番前のお客さんへの説明のことだ。

「あれ、ADさん、そのうちディレクターになる人のいい勉強になるよ」

「今は、ADがやらずに、若い芸人さんとかがやってますけど」

「それはダメ。前説から番組作りは始まってるんだから、それはスタッフがやらなきゃ。プロダクションも、タレントのバーターで若い芸人を入れようとするのはやめなきゃ。せこいよ」

「ぼくも『ぴったしカン☆カン』のADですしたから、前説やってました」

「上手かったの?」

「つかみは『こう見えても僕の名前は高橋秀樹です』って」

「高橋英樹さんとは似ても似つかないもんなあ」

前説の一番の役目はお客さんを温めること。大きな声で笑ってもいいんだということをわかってもらう。でも、説明するのではなく実際に笑ってもらってソレをやる。

「上手かったのは、フジテレビの三宅(恵介・現テレビ制作会社千代田企画社長)と、小林(豊・現テレビ静岡社長)。でも、ほんとに前説がうまく出来るまで、三宅で半年、小林は1年かかったよ」

「そうやってお客さん温めて、だいたいテレビの場合300人くらいかな、そのお客さんに笑ってもらって、テレビの向こうに座っている人にも伝える。伝わるのはスタジオの笑いの3分の1くらいだなという思いが僕にはあった」

スタジオ収録の仕方を大将の番組のスタッフはみんな叩き込まれた。お客さんが舞台が見えにくくなるような位置にカメラを置くな、スタジオのお客さんが笑って初めて、テレビを見ている人に伝わるんだ。お客さんの前でカウントダウンの秒読みをするな、5秒前、4秒前とかおっきな声で言ったらお客さんが緊張するだろ。これらは金科玉条として守られた。果たして今のテレビには伝わっているのか。

「笑いはお客さんの数で変えなきゃいけない。3人用の笑い、10人用の笑い、後は50,200,500,800,1000人だなあ。コント55号の全盛期は5年かくらいだったけど、どの人数の笑いにも対応できたと思うよ。日劇で1000人を笑わせると、お客さんの笑いが波打つ。波のように押し寄せてくるんだ」

「稽古場でね、あんまり稽古するなって、僕は言うよね。稽古し過ぎると稽古場用の笑いができあがっちゃうんだ。稽古場で見てるのは精々スタッフ10人、それに、早く帰りたいからみんなよく笑うでしょ」

「だから、早く、稽古やめる」

「二郎さんとは?」

「稽古はいらないんだよ。それはねえ」

(インタビュー⑫につづく)

 

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メディアゴン 編集部

メディアゴン編集部(めでぃあごんへんしゅうぶ)2014年5月末日、東京生まれ。メディア批評・メディア評論に特化したメディア専門家によるメディアニュースサイト。キー局プロデューサー、ディレクター、イベントプロデューサー、放送作家、大学教授、評論家、ゲーム作家、弁護士・・・などなど、メディアの第一線で活躍する人材が活動中。