<もはやテレビドラマのシナリオだ!>我が家にきた「オレオレ詐欺」完全レポート(その③)

社会・メディア

藤沢隆[テレビ・プロデューサー/ディレクター]
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我が家にきた『オレオレ詐欺』完全レポート」と題して書いてきた記事もいよいよ3回目。いよいよ「起承転結」の“結”です。
この話の“結”はみなさんからみれば少し物足りないかもしれません。テレビドラマの“結”も往々にして物足りなさの残るものだっりしますから、ご容赦を。
二日目の午後2時前、犯人からオクサンの携帯に電話がかかってきました。

犯人「おれ、ヨシヒコだけど、どう、お金? むこうはけっこう急いでいるみたいなんだけど」

オクサン「うん、そうね・・・」

電話しても息子は出ず、夫にも嫁のマサコにも話をできない、それでいてなんとしても息子を守らなければならないと思い悩むオクサンは、100万円は大金だけど夫に気づかれずになんとかできない金額でもないし、今回はお金を払うしかないか・・・。と、いうところに追い詰められていました。

オクサン「じゃあ、どうすればいいの?」
犯人「お金、用意できてるの?」

オクサン「まだだけど・・・。銀行、閉まっちゃうかしら」

犯人「じゃあ、いそいでお金を用意して。ごめんね、こんなこと他の誰にも頼めないし・・・。3時頃また電話するから」

この時点で犯人は成功を確信したに違いありません。しかし、しかし、しかし・・・。「100万円で最愛の息子の窮地を救えるなら」と腹をくくったはずのオクサンに、ほんのわずかに残った猜疑心が土壇場になって頭を擡げたのでした。それは1000円の買い物でも吟味に吟味を重ねる女性の本能のようなものだったのかも知れません。

オクサン「わかった、お金用意するけど、最後にさ、あなた自分の誕生日を言ってみてよ。まさかとは思うけど万一オレオレ詐欺だったら困るでしょ。」

犯人「なにを言ってるんだよ。おれヨシヒコだよ。」

オクサン「わかってるわよ。誕生日ぐらい言えるでしょ、そんなこと何でもないじゃない。」

犯人「おれを疑っているの、なんだよそれ。息子だよ。」

オクサン「誕生日を言えばいいだけよ。」

犯人「母親なのに疑ってるんだ。そんならいいよ、もう頼まないよ!」

電話は切れました。犯人のため息が聞こえるようです。まさに9回裏2アウトからの逆転劇でした。やはりオレオレ詐欺だったのだと思いながらも、それでもしばらくの間オクサンは「もしかしたら、あれはやはり息子のヨシヒコではないのか・・・。ヨシヒコは困り果て途方に暮れているのではないか・・・」と心配し続けていたのでした。
夕方になって私は帰宅しました。オクサンが堰を切ったようにしゃべり出した内容で、ヨシヒコの風邪と首のしこりの話までは心配になりました。しかし、話が浮気・妊娠話から100万円の話となるとあまりのステレオタイプのオレオレ詐欺話にあきれかえるしかありませんでした。
それでもここに至っても、もしかして詐欺ではなくホントの話かもしれないとグズグズ言うオクサンを無視してヨシヒコのスマホに電話しました。ところがなぜかかかりません。それではと、あくまで息子の味方であるオクサンが止めるのを無視して嫁のマサコさんに電話しました。
マサコさんによれば、昨夜は11時ごろまで二人でテレビを視ていた。ヨシヒコは風邪もひいていないし、首にコブが出来たなんてありえない、とのこと。「会社の女性を孕ませたという話なんだけど」と言うとマサコさん一挙に大爆笑で、お父さんには申し訳ないですけどヨシヒコさんにそんな根性はないと思いますよ、だと。ほどなくヨシヒコ本人からも電話があり、わが家の第一回オレオレ詐欺騒動はエンドマークとなったのでした。
しかしながら、どうです?
巧妙に相手を追い込むストーリーの起承転結と、何気ない会話から知る情報、そして周到に張り巡らせる伏線、まさにテレビのサスペンスドラマではありませんか。もしかしてオレオレ詐欺の手口は手練れのテレビドラマシナリオライターが書いているのでは・・・と疑りたくなります。
そうそう、うちのオクサンいまだに、

「あれはやっぱりヨシヒコの声だった。しゃべり方も間違いなくヨシヒコだったし、あの子ってああいう言い方するのよ。わたし、聞き違えるはずないし。」

などと言い続けております。シナリオだけでなく、オレオレ詐欺の演技力もテレビドラマ並みなのかも知れません。お気をつけて。
 
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