品性下劣な人々が「品性下劣な人々のため」に作ったのがワイドショーなのか?

テレビ

高橋秀樹[放送作家]
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人に見せたくない人間の裏側を無理やり覗こうとするのは「品性下劣」なのだろうか?
人に見られたくない人間の裏側を覗いて楽しむのは「品性下劣」なのだろうか?
いささか、偏見過ぎるかもしれないが、この「品性下劣」と「品性下劣」の欲望が合致して生まれたのが「ワイドショー」である。ワイドショーはなんでもありだと思っている人がいるかもしれないが、そうではない。特に草創期のワイドショーが扱うのは決まっていた。唯一扱うのは、欲と色恋沙汰が絡んだ事件である。これのみと言っても良いくらいだ。
TBSの『ホットライン』(1981年「朝のホットライン」としてスタート)という朝番組に報道局から局次長として乗り込んできた女傑がいた。通称・お春さん、ディレクターの吉永春子である。

(以下、日刊ベリタより引用)吉永は「魔の731部隊」「天皇と未復員」など数々の話題作を作った敏腕ドキュメンタリストである。帝銀事件、下山事件、松川事件などGHQ統治下に起きた一連の謎の取材が原点である。
「恐いけれど、底知れない謎があるものにひきつけられました」とは彼女の述懐である。
ラジオの報道部時代には、親子の心中未遂事件も取材しました。共同通信から速報が入り駆けつけた。
「病院に行くと畳敷きの大部屋に家族3人寝ていました。おばあさん、母親、息子の3人です。声を拾わないと番組にならないので困ったな、と思いながら、親子の枕元でじっと見守っていました。目を覚ましたとき、第一声で何を言うか?それを録音しようと思ったのです。最初に子どもが目を覚ましたので一緒に遊んでいると、しばらくして母親が目を覚ましました。途端にワーッと泣き出して、どうして死なせてくれなかったんですか、と言いました」(以上、日刊ベリタより引用)

その吉永春子が、ワイドショーの総指揮者として異動してきた。吉永は、かつての部下である男の局員を、故郷の広島弁で「来んしゃい」と呼びつけては取材を命じた。対象は「底知れない謎がある」事件である。

「ウチは報道局じゃないんだ。報道じゃ撮れないものを取ってきんしゃい」

「人間の裏側を撮るのよ、裏側を。報道の真実なんて言ってるものとは違うものがあるんよ」

「事件取材は新聞の社会部が担当する雑感が一番面白い。本記以外のネタをどれだけ探れるかが勝負!」

これは吉永が言った言葉通りではないが、当時、吉永の下についたディレクターは、常にそう言われていると感じたという。

「お春さんは、いつも、おもしろいのは人間なんだて言ってました。事件だ、なんだって言ってるけど、事件を起こすのは人間、その人間の裏側をほじくり返さないで、おもしろいものができるはずがない、そう、おっしゃっていました」

『ホットライン』で、吉永イズムは徹底される。だから、通り一遍の芸能スキャンダルなどは扱わない、人間が皮相的すぎて面白くないからだ。
その吉永が、ある日見つけた「底知れない謎がある」人間、それが故・三浦和義氏(ロス疑惑)であった。
 
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