<2015メディアゴンはこう考える①本気で考える架空の企画>2015年だから書きたい2年先くらいの「テレビショウ」


高橋秀樹[放送作家]

***

[編集部註]本文はフィクション(架空の番組企画)です。登場する芸能人の情報は本当かもしれませんが、具体的に挙がっている名前は希望です。

***

2015年元旦企画「どうなる?2015!〜メディアゴンはこう考える〜」はコチラ

2017年、冬の夜の金曜日10時、そのテレビショウは始まった。タイトルは「大人気R(おとなげアール)」。今日で100回目の放送である。司会は俳優の中井貴一と、宝塚出身の天海祐希。まずは、オープニングコントだ。

パーティ会場、ウェイターに扮した中井が盆に乗せた2種類のジュースを運んを運んでくる。

中井「オレンジジュース、アップルジュース、オレンジジュース、アップルジュース」

中井、すごい美人の天海がセクシーな胸元のドレスを着ているので、ついチラ見してよろける。

その拍子に盆が揺れ、オレンジジュースとアップルジュースが、こぼれ、混じってしまう。

天海「ちょうだい」

中井「ミックスジュース」

オープニング曲はスタンダードジャズ。サラ・ヴォーンの歌う「バードランドの子守唄」これは、その週の火曜日にVTR収録した番組である。一流カメラマンが撮った月曜の稽古から火曜の本番までの出演者のスナップ写真が挿入されたタイトルバックが流れる。

演出部のモニターで、オンエアを見ていたチーフディレクターの松島は「ああ、いつもどおりの番組にしといてよかった」と思う。女性プロデューサーの常畑が松島に声を掛ける。

常畑P「編成、怒ってるけど、わたし、防波堤になっとくから、気にしなくていいわよ」

松島CD「ありがとうございます、いつも助かります」

松島に編成局の下谷が100回記念の「大人気R」を、2時間のスペシャル版にしてくれと言ってきたのは3ヶ月前だった。松島は嫌だった。いつもどおり、いつもどおりにやりたいんだよ。

特番で花火打ち上げたって、中身が薄くなったら元も子もない。見ている人だっていつもどおりを待っているはずだ。と松島は思う。断った。下谷の上司も来て口説かれたが、それは、プロデューサーの常畑さんがあしらってくれた。だから、「大人気R」は編成局では扱いにくい目の敵だ………だから視聴率は15%を取り続けなければならない。

番組はタイトルがあけて「マイ・フェイバリット」のコーナーが始まった。このコーナーはあらゆる世界の人が自分のお気に入りを持ってきて話すトークショウだ。このコーナーを最初に常畑が提案してきた時、松島は反対だった。

松島CD「トークって、なんか時間埋めみたいでぼく嫌いなんですよ」

常畑P「私もおんなじ。でもね、このトークは違うの、芸能人は基本的にキャスティングしない、世の中には、すごいお気に入りを持っている素人さんがたくさんいるの。そういう人に出てもらって、中井さん天海さんとトークする」

松島CD「素人でもちますか」

常畑P「松嶋ちゃん、もたないは禁句」

松島CD「もたせる工夫をしてないだけだと」

やってみるか、と松島は思った。頼るのは、中井さんと天海さんの聞く力だ。それなら勝ち目はある。

中井貴一さんをキャスティングしようと思ったのは、同期のドラマ部のやつから聞いた話がきっかけだった。中井さんは、主演ドラマの打ち上げがあると、必ず司会をかって出る。その司会ぶりが、「面白いんだよそりゃあ。さんまさん、凌ぐかもしれない」それは大げさだと思ったが、一度見てみたい。頼んで、打ち上げに忍び込ませてもらった。

同期の言うことは本当だった。ビンゴで景品をもらった照明の若い女の子に、インタビューしている。

松島CD「今回のドラマで一番照明の当て甲斐のあった女優さんは誰だった?」

質問の選び方が上手い。照明の女の子が困っていると、女優陣から声が飛んだ「言っていいわよぉー」。中井さんを司会に頼んでテレビショウがやりたい。その時、松島は強く思った。でも、ドラマで今も第一線を張っている中井貴一さんがバラエティの司会など引き受けてくれるだろうか。

翌月に始まった、帝国劇場での中井さんの芝居に、松島は毎日通った。そして千秋楽の日になってはじめて楽屋を尋ねた。

松島CD「ゲイシャテレビの松島と申します。はじめまして」

中井さんが、微笑んだような気がした。

中井「松島さんておっしゃるんですか、覚えてますよ顔は、こないだのドラマの打ち上げ、一番大きな声で笑ってたのあなたでしょ。ドラマじゃ見ない顔だったから印象に残ってます。今日の芝居どうでしたか」

松島CD「30回見ました」

中井「なにそれ?」

松島CD「30日ここに通ったんです」

中井「それで?」

松島CD「30日目が一番面白かったです」

企画の話を聞こうということになって、松島は翌週、中井の事務所を尋ねた。やりたいことをまっすぐ話す。

松島CD「テレビショウがやりたいんです。ディーン・マーチンショウやボブ・ホープショウみたいな。歌があってコントがあって、おしゃべりがあって、踊りもあって、歌舞音曲です。やりたいのは。具体的なことは決まってません、まだ企画書はぼくの頭のなかで迷ってます。迷ってないこともあります、稽古が必要な番組になると思います」

「月曜日、一日稽古があって、火曜日に軽いリハーサルと本番、できれば一本撮りで毎週」

中井「シャボン玉ホリデーみたいなということですか」

と中井さんが聞いた。

松島CD「そうです、でも、“みたいな”番組って大体当たりませんよねえ」

中井「じゃあ、これも当たらないということですか」

松島CD「いえ、これは当たるんです、中井さんに出ていただければ」

中井「騙されませんよ」

結局中井さんは「考えさせてくれ」と話をひきとった。

翌日、局の喫茶店からデスクにいた松島に電話があった。中井さん本人からだった。

中井「出ます。松島さんの番組。でもねちょっと、お願いがある」

松島が喫茶店に降りて行くと、挨拶をするのももどかしいように中井さんは話だした。

中井「ぼくも演じたい」「コントもやる」「歌は入れたいけど、ぼくは歌わない」「どのあたりでもいいから、ぼくに3分自由に話をするコーナーを作って欲しい」「パートナーに天海祐希さんをお願いして欲しい」

最後は難題だった。悩んでいる時に声をかけてきたのはプロデューサーの常畑だった。

常畑P「そういう時は私を頼ってよ。私ずーっと女子高生の時からの宝塚ファン、ファンクラブにも入ってるんだから、その代わり、プロデューサーは私ね」

「マイ・フェイバリット」のコーナーゲストはからくり人形、オートマタのコレクターだった。世界中の特にヨーロッパの精密な自動人形。ブロンドの清楚な顔をした貴婦人の人形が、Yuki Amamiとペンでサインをした。

テレビの中の天海さんも嬉しそうだが、テレビを見ている常畑さんも嬉しそうだ。

常畑P「ネタをリサーチャーに探させる? だめだめ。あんなのネットで調べるんだったら誰だってできるの、うちの班の新入社員2人専属にしたから、帰ってこなくていいって。ひとりは那覇から、もう一人は網走から、ネタ探しながら東京に向かってます」

松島CD「もたせる工夫すればいいんですね」

常畑P「もつかしら」

あの頃、常畑さんは、胃がキリキリ痛かったとあとで白状した。

番組は、シーンが変わり、突然時代劇セット。「大人気シアター」は、古今東西、映画、芝居、小説のスタンダードを中井貴一と天海祐希が演じる。笑わせるのではない、ちゃんと演る。但し、キャスティングに凝る。ひとりだけ、二人の芝居に破調をもたらす役者が入る。

柳の下に勤皇の志士月形半平太の中井貴一と、月形を慕う芸者雛菊の天海祐希。

雛菊「月様、雨が…」

月形「春雨じゃ、濡れて行こう」

とそこに現れた新選組の近藤勇、この役を務めているのは、コメディアンの萩本欽一さんである。

近藤「月形さん」

月形「近藤さん」

近藤「行かせるわけにはまいりませぬ」

鞘走って、殺陣が始まった、本格的だ、後は3人に任せよう。

「フェイバリット・カヴァー」のコーナーは、スタンダード曲のカヴァーをデュエットで歌うコーナーだ。今日は、井上陽水さんと、八代亜紀さんのコンビで「コーヒールンバ」

中井さんにやらせてくれと言われた「3分自由に話す」コーナーはエンディングに設けた。聞き役に天海さん。

ここは、作家を使わず、毎回中井さんが自分で考えてくる。中井さんにこう頼まれている「松島さん、ぼくの話、少しでも説教臭くなったら厳しく指摘して下さい。色んな話するけど、説教臭い話だけはしたくないから」

今夜は、この間、作ったローストビーフの話。天海さんはつくるほうには、興味がなさそうだ。

スタッフロールが流れる。

そういえば編成の下谷が、番宣のゲストを入れてくれって言ってたけど、コントに出てくれるなら入れてもいいよと、常畑さんに返事してもらおう。コントはやらないって、きっと言われるだろう。

 

【あわせて読みたい】