<地方でテレビはまだまだ「魔法の箱」>私はドラマ○○に影響を受けて△△になりました

黒田麻衣子[国語教師(専門・平安文学)]

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年末年始は、教師をしている筆者の元に、大学生・社会人となった教え子が、会いに来てくれる嬉しい時期である。立派に成長し、夢を叶えてがんばっている教え子の姿は、本当に眩しい。そんな教え子たちに、「ところで、この仕事を目指したきっかけって何だったの?」とあらためて聞いてみると、テレビの影響を理由に挙げる子が意外に多いことに驚く。
『Dr.コトー診療所』(2003年、2006年、フジテレビ)で地域医療に従事する医師を目指した生徒がいる。医療ドラマは、毎年のように何某かの作品が制作されているので、医師や看護師を目指すきっかけとなることも多いようだ。
変わり種では、『きらきらひかる』(1998年、フジテレビ)を観て、監察医になりたいと言った女子がいた。『医龍-Team Medical Dragon-2』(2007年、フジテレビ)から、「自分は医師には向いてないけれど、医療系の仕事がしたかった。医龍を観て、臨床工学士の存在を知り、目指そうと思った」という生徒もいた。
刑事ドラマを観て、警察官を目指す生徒も多い。ドラマの影響で、「将来、科学捜査研究所で働きたい」と言った生徒もいた。
田舎で暮らす中高生にとって、テレビは、多くの職業と出会わせてくれる「魔法の箱」である。『情熱大陸』(TBS)や『NHKプロフェッショナル仕事の流儀』(NHK)、『世界一受けたい授業』(日本テレビ)なども、意外と中高生が好んで視聴している。
ここまで挙げた番組はすべて、それなりに視聴率を取り、話題となったものばかりであるが、たとえ低視聴率であっても、多くの作品に埋もれて人々の記憶から消えていった作品であっても、誰かの心には残っている、ということを最後にお伝えしたい。
昨年、大学を卒業したある教え子は、東京で過ごした学生時代をずっと、ある国会議員の秘書インターンをして過ごした。彼がずっと政治に強い関心を抱いていたことは知っていたが、なぜアルバイト先に「秘書インターン」を選んだのか、その存在はどこで知ったのかと問うと、彼はこう言った。

「昔ね、とんねるずの石橋さんがドラマで、政治家の秘書の役をやってたんですよ。で、それを観て、政治家の秘書になってみたいなって思ったんです。」

件のドラマは、『レッツ・ゴー!永田町』。2001年に日本テレビで制作されたドラマである。2001年といえば、フジテレビの『HERO』が平均視聴率34.3%をたたき出した年で、平均視聴率20%を超えるドラマは『HERO』以外にも5本あり、15%を超えるドラマも15本も制作されている黄金期。
その年に、『レッツ・ゴー!永田町』は平均視聴率が一桁の、業界で言えば「大コケ」したことになるドラマなのだろう。ドラマ好きを自認する筆者といえども、生徒からドラマ名を聞いても、すぐには思い出せなかった。
俳優さんが出演してドラマの裏話をするようないくつかのバラエティ番組を2014年に見たが、そういった番組の中で、複数の俳優さんが、

「視聴率がふるわないと、とたんにやる気をなくして、なげやりな芝居をし始めるヤツがいる。腹が立つ」

と語っているのを聞いた。誰だって、自分が関わった作品を多くの人に観て欲しいと思うであろうし、高い評判を受ければ嬉しい。テンションが上がる。
その反面、「低視聴率だ」「すわ打ち切りか」と連日報道されてしまえば、気力も萎えるだろう。しかし、上記の生徒のように、どんなに低視聴率であっても、それを観て影響をうける若者が必ずいる。真摯に制作されたテレビ番組は、必ず誰かの心に届いている。視聴率だけが、テレビ番組の善し悪しを決める指標ではないはずだ。
今年も、多くの作品が制作されるのであろう。スポンサーからすると、視聴率は大切な指標なのであろうが、視聴者にとってはどうでもよい数字である。視聴者の声は、なかなか制作者には届かないかもしれないけれど、心をふるわせている誰かが、必ずカメラの向こうにいる。
私たちは、テレビという「魔法の箱」が提供してくれるエンターテインメントを、情報を、知恵を、感動を、今日も楽しみに待っている。
 
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