CG全盛の現代にコンピュータ処理をしない「CGみたいなアート」が面白い


メディアゴン編集部

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現在、川越市立美術館で開催されている、不思議な美術展が話題だ。

スキャモルフォーゼ展」と名付けられたその美術展で展示されているのは、美術館のギャラリー内の壁面に、360度パノラマで展示された長大な作品だ。縦3メートル×幅3メートルの巨大な正方形10枚で構成されている。作品全体としての長さは30メートルにもなる。

作品は一見すると、4人の男女の裸体を元にした写真をコンピュータで加工したCG画像のように見える。しかし、作品は「これは、CGではない。」と銘打たれ、コンピュータ処理は施していない「リアルタイム」で生成した写真画像であるという。

写真にコンピュータ処理を施したようにしか見えないこの作品は「CGではない」。この作品「スキャモルフォーゼ」は、風景や屏風のような美術工芸品などを記録することを主たる目的のために開発された高解像度360度スキャナーを利用して制作されている。

通常、パノラマ記録した画像は、歪んだりすることなく、自然に美しく記録される。しかし、被写体があるテンポやパターンで動くことで、まるでCGで加工したような不思議な画像を生み出すという。

同作品は、人気放送作家の安達元一氏と、東洋大学准教授でメディア学者の藤本貴之氏によるプロジェクト。

 

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安達元一氏はこの作品は次のように解説する。

安達氏「通常、スキャナという装置は、被写体が静止したり、自然に動いていることが前提。当然、被写体をいかに美しく、忠実に静止画として記録するかだけが考えられています。もちろん、スキャナを利用して画像を記録している最中に、カメラの移動位置に合わせて意図的に被写体を動かす/動く、というような発想はないそうです。しかし、スキャナ開発者ではない私たちには、まず、その『常識』がありませんでした。最近のスキャナーは驚くほど高機能。使い方を間違えない限り、エラーは起きないと誰もが信じています。しかし、その『常識』を覆すことで、スキャナという装置を、まったく新しいアートツールにしてしまおうと考えました。」

安達氏によれば、この作品の制作には、常に被写体が360度回転するスキャナのカメラと共に移動し続ける必要がある。遅くても、早くても、十分な画像が得られない微妙な作業であるという。また、あるタイミングによって(これは職人的なテクニックだともいう)、被写体が「鏡映し」の状態、すなわち左右や上下が反転するという不可思議な現象が発生する。それによって、コンピュータでは予測できない奇妙な表現を生み出すことができる。

藤本貴之氏は次のように語る。

藤本「今、映像表現の現場はどこもかしこもCG。もちろん、CGの技術を否定するわけでも、嫌いなわけでもありません。しかし、誰もがやっていることをやっているだけでは、表現やその技術は進化しません。むしろ、『いかにもCGに見えるコト』をCGでは絶対に再現できない手法で作り上げようと思いました。そして、コンピュータやテクノロジーの最大の魅力である『正確さ』を、私たち人間が意図的に『誤作動』『誤認識』させることで、コンピュータで処理したように見えるけど、コンピュータでは絶対に不可能な視覚表現を作り出そうという考えに基づいています。」

作品を制作をする時、安達氏、藤本氏の役割は、スキャナ・カメラの移動や画角にあわせて、絶妙なタイミングで被写体のモデル達の動きを指示するいわば「演出家」であり「指揮者」のような役回りであるという。

コンピュータが常に正確に被写体を記録しようとするメカニズムを逆手にとった誤作動を意図的に作り出す。「本来であれば失敗を犯すはずのないコンピュータ利用の状況」を人間のパフォーマンスと想像力によって「騙す」ことでより不思議な作品が出来上がる。

CGのようなCGではなく作品。コンピュータを騙す作品。実に不思議な感覚を引き起こす作品である。(2015年2月1日まで埼玉県川越市立美術館で開催)

 

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メディアゴン 編集部

メディアゴン編集部(めでぃあごんへんしゅうぶ)2014年5月末日、東京生まれ。メディア批評・メディア評論に特化したメディア専門家によるメディアニュースサイト。キー局プロデューサー、ディレクター、イベントプロデューサー、放送作家、大学教授、評論家、ゲーム作家、弁護士・・・などなど、メディアの第一線で活躍する人材が活動中。