<一人で複数世代を演じる香川照之の独壇場>最終回直前!TBSドラマ「流星ワゴン」は香川照之を乗せてどこへ行く?


水戸重之[弁護士/吉本興業(株)監査役/湘南ベルマーレ取締役]

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「あなたには、過去をやり直したいと思ったことがありますか?」

TBS日曜劇場「流星ワゴン」は、重松清の同名のベストセラー小説のドラマ化。「家庭とは?親子とは?」を問うファンタジードラマである。

チーフ演出はジャイさんこと福澤克雄。脚本が八津弘幸、プロデューサーが伊與田英徳、とくれば、「半沢直樹(2013)」や「ルーズヴェルト・ゲーム(2014)」を生み出した、TBSが誇るドラマ制作チームである。TBSのこのクールの目玉と言ってよいだろう。

まじめだが妻子とのすれ違いで家庭崩壊の危機に瀕し死まで覚悟する会社員・永田一雄(西島秀俊)の前に、破天荒な父・チュウさんこと永田忠雄(香川照之)が現れる。それも息子の自分と同世代の男として。父は息子のことを、親友という意味の「朋輩(ホウバイ)」と呼ぶ。

二人は事故死した「橋本さん親子」の幽霊が運転する不思議なワゴンに乗せられる。前席にはワゴンのドライバー橋本さん(吉岡秀隆)、助手席には息子の健太(高木星来)、後部座席にはチュウさんと一雄が乗り、4人による過去への旅が始まった。

芝居はチュウさんを演じる香川照之の独壇場だ。一人でも他を圧倒できるのに、若き日、壮年期、晩年と1人複数世代役(とでもいうのだろうか)をこなす。これを超えるのは、日本生命のCMの岡田准一くらいだろう。

香川の演技は、過剰だ。ワゴンに乗り込んだチュウさんは、ハイウエストで締めたベルトに太めのズボン、薄辛子色とでもいうような微妙な色の長袖ポロシャツ、その走りは妙に歩幅が小さい、他人の目を気にしない時代遅れの頑固者。どの世代でも、チュウさんは、家族や他人の言うことを聞かず、物ごとを独断専行で進める。

実に濃い。これは他の役者とのバランスを崩していないだろうか。香川照之ショーになってはいまいか-。

もちろん、答えはノーだ。これはトリックスターの物語だからだ。

「トリックスター (trickster)」 とは、神話や民話の中で、神や自然界の秩序を破り、物語を引っかき回すいたずら好きなキャラクターのこと。社会の秩序を引っ掻き回して去っていくが、その後に人々の心の中に何かを残す。いろんな問題をかかえながら現状を打破できずにいた人たちの何かが変わる。

チュウさんは実の息子や孫を救うだけでなく、幽霊親子までひっかきまわす。成仏を目指している幽霊としてはありがた迷惑もいいところだ。

すでに再婚相手との間に子供をもうけ別の家族をつくった母親のところに、健太を無理やり会いに行かせる。自分は忘れられたんだ、と傷つく健太であったが、チュウさんに言われて最後の別れを告げに入院した母の前に現れる。母親は死んだはずの息子と再会し、

「健太のこと、忘れたことなんて一度もない」

と泣きながら抱きしめる。ようやく健太の心の整理がつく。

いよいよ橋本さん親子の別れ。子供の健太は、土壇場で、

「成仏したくない、お父さんと一緒にいたい」

と言いだし、道に飛び出す。危うくトラックに轢かれそうになるが、父親の橋本さんが間一髪救う。大丈夫か、怪我はないか、と心配する橋本さんに、

「ぼく、死んでるんだよ。もし当たったって全然へっちゃらなのにさ。痛くなんかないのに、必死になって助けようとして、ばっかじゃない」

と毒づく健太。なおも続けて

「ほんと間抜けだよね、みっともないったら・・・」

橋本さんのビンタがとぶ。

「放っとけるわけないだろう! 生きてようと、死んでようと!!」

泣きながら健太が言う。

「あれ、おかしいな。幽霊だから痛くないはずなのに、すっごく痛いや」

血の繋がっていないがゆえにお互いを気遣っていた親子が、ようやく正面からぶつかって本物の親子になった瞬間だった。健太は事故現場で皆に見送られながら一人消えていくが、チュウさんは、

「ワシは、こげな別れ方は好かん!」

とつぶやく。その形相がまた何かを変える予感。やがて気配を察して闇を凝視するチュウさん。すると成仏したはずの健太が、みぞれ雨の闇の中から、走って戻ってくる。バックに流れるのはサザンオールスターズの「イヤな事だらけの世の中で」。

健太役の高木星来くん、大人をあんまり泣かせるんじゃないよ。

チュウさんが出すメッセージは単純だ。

<ぶつかれ!>

息子に、妻に、母に、ぶつかっていけ。自分にもぶつかってこい。ただし、自分にぶつかってきたら叩きのめす。それでもぶつかってこい。何をおそれているんじゃ!?

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タイム・スリップ物の名作は、これまでも数々あった。「バック・トゥー・ザ・フューチャー(1985)」、「バタフライ・エフェクト(2004)」、「時をかける少女(1983・1997・2006・2010)」などなど。そこで必ず突きあたるのが「過去に戻って未来は変えられるのか」というテーマ。変えられるとすれば、未来から来た自分も変わってしまうわけで、とすると、過去に戻る必要もなくなるわけで・・・。

その矛盾をどう解決するかがどの物語でもネックになる。解決策は2つしかない。何らかのつじつま合わせのロジックを構築するか、はたまた、ロジックなどどこかに吹き飛ばすくらいの物語を創り上げるか。

第8回では、一雄はついに妻と息子にぶつかっていき、絆を取り戻す。あと2回、一雄がいよいよ父親としてのチュウさんにぶつかっていく。

いつのまにかチュウさんと一雄の同乗者となった僕たちを、「流星ワゴン」はどこへ連れて行ってくれるのだろうか。

 

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水戸重之

水戸重之(みと・しげゆき)弁護士として、映画、音楽、放送、芸能界、スポーツ関連の仕事を25年にわたって続けている。吉本興業(株)監査役、湘南ベルマーレ取締役。早稲田、慶応、筑波の各大学で教壇に立つ。日本人メジャーリーガーの日本側代理人を務める(石井一久、高津臣吾、齋籐隆、福留康介、黒田博樹、川上憲伸、青木宣親、田澤純一他)