TBSドラマ「ルーズベルトゲーム」が野球のルーズベルトゲームほど魅力的でなかったワケ

テレビ

齋藤祐子[文化施設勤務]

 
逆転に次ぐ逆転、という追いつ追われつの好ゲーム、7対8のような打撃戦の野球ゲームを「ルーズベルトゲーム」と呼ぶ、とこのドラマで初めて知った。
そういうドラマをつくりたかったのだろうな、と原作を読み終わった瞬間に思った。毎回はらはらさせて、次回につなげれば連続ドラマとしては成功だろうと。だが残念ながら、追いつ追われつのゲームにこのドラマがなるためには、3つの点で失敗している。
まずはそれぞれの役柄のキャラクター設定を、おそらくはキャスティング優先のためだろうが多少変えている点。原作では青島製作所の細川社長はコンサルタント事務所出身のスマートな合理主義者(ドラマでは唐沢寿明)、専務の笹井はたたき上げの番頭格の経理マンで、社長よりも年齢はかなり上(ドラマでは江口洋介)。
外からヘッドハンティングされた細川に、確実視されていた社長の座を奪われ専務の笹井はなにか腹に持っている様子。ライバル会社のイツワ電気の社長坂東は、営業畑出身でエネルギッシュで個性的だが、腰は低く笑顔は魅力的とされる。社長職も長く、細川より年齢はかなり上(ドラマでは立川談春)。
唐沢はいいとして、笹井と坂東はそれなりに重しがあり、年齢も上の役者がやるべきものだ。それでこそ細川という合理主義者が野球部という存在を通して人によって企業が成り立っているということに改めて気づくのだし、専務の笹井も細川という人物と自分との違いを明確に理解する。
タイプの違う社長や重役が苦悩しながら社運をかけたシビアな判断をし、しのぎを削って競争する、だからこそこの小説のテーマが生きてくる。残念ながら江口洋介の笹井はスマートすぎるし、立川談春の坂東は類型的な悪役過ぎる。ビジネスの世界には、えげつないやり方はあっても悪役はいないのだから。
もう一つは、そのテーマが印象的にかぶってくるはずの野球のシーンの扱いだろう。小説ではここぞ、という時にしかでてこない野球部のシーンが、ドラマではかなりの比重を占めていた。青島製作所の苦境とそこを突破するための努力が、低迷する野球チームが再生を遂げようとする頑張りに最後には見事に重なる、それが小説では説得力をもつのだがドラマでは両方に比重をおいたため、焦点がぼけてしまう。
最後に、ルーズベルトゲームというタイトルに反して、たとえばNHKの土曜ドラマのような長めの放映時間の3回シリーズなどでじっくり見せるほうがこのドラマは向いていた、というのが筆者の正直な感想である。社会人野球の実態、製造業の苛烈な競争、未公開株式の扱いや企業にとっての株主とはなど、正味40分程度の放映時間で視聴者にわからせるにはハードルの高い要素が多かったようだ。
とはいえ、連続ドラマにしてはまずまずの視聴率と話題を提供した点では、成功といえるのだろう。様々な制約の中で厳しい視聴率競争を繰り広げるドラマ制作の現場。毎週の視聴率で逆転したりされたりの現場こそ、実はルーズベルトゲームなのかもしれない。
 
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