<フジテレビ「ENGEIグランドスラム」の無駄遣い>なぜ「ナインティナイン」は漫才をやらないのか?


高橋維新[弁護士]

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2015年5月30日に放映されたフジテレビの特番「ENGEIグランドスラム」は実力派の芸人のネタを見せるという特番である。いくつか感じたところを記す。

<1>全体の演出面

「THE MANZAI」(フジテレビ)や「キングオブコント」(TBS)といった賞レースの番組とは異なり、生放送ではなかった。その点は素直に評価できるが、「生放送じゃないことの利点」はほとんど活かせていなかった。

生放送じゃないと、編集ができるようになる。編集ができると、おもしろくない部分を削り、おもしろい部分だけを抽出して、映像全体のクオリティを高めることができる。

芸人のネタの部分は、ほとんど編集をしていない「撮って出し」の状態だった。これでは、生放送で全部が丸のままお茶の間に流れる「THE MANZAI」や「キングオブコント」と一緒である。しかし、生放送ではない形でやるからには、編集をしてほしい。そして、編集をすること前提で、番組側が一緒になって事前に芸人のネタをブラッシュアップしてほしい。

出演者は売れている芸人なので、基本的に自分のネタに口を出されるのは嫌がるだろうが、表現作品に色々な人の意見を多角的に取り入れてその質を高めていくというのはどの業界でもやっていることである。小説家や漫画家には口を出す編集者がいる。映画は監督一人では何もできない。

無論、どの業界でもいったん偉くなった人のやることに口を出すのは難しくなるのだが、そうやって周りをイエスマンばかりで固めた人ほど劣化も早いというものである。

司会のナインティナインも、ネタの合間合間のつなぎが仕事なのだろうが、2人ともほとんどおもしろいことを言ってなかった(使われていなかった)ため、存在意義がないと言ってよかった。あの程度なら、ナイナイに高いギャラを払ってまであの席に立ってもらう必要はない。局アナにもできる仕事である。

そもそも、ネタ終わりの芸人とナイナイの絡みの時間が少なすぎるように感じた。生放送でない形で、司会にも芸人を配置して映像を作るからには、もっと司会との絡みをガッツリとやってほしい。編集はできるので、その場で客にウケるかどうかはある程度度外視してカメラを回すことはできる。ナイナイのMCとしての仕事があの程度なら、ネタもやってほしかったところである。

今までに書いたことを全て実践すると、「めちゃ×2イケてるッ!」(フジテレビ)の「笑わず嫌い王決定戦」というコーナーになる。あれが、同じネタコーナーなのに他の有象無象の「ネタ番組」よりおもしろいのは、ガッツリと編集をしているからである。だから、笑わず嫌いでおもしろかった芸人のネタを他の番組で見ると、思ったほどおもしろくないという現象がよく生じるのである。

「笑わず嫌い王決定戦」では、作家やディレクターが出場する芸人のネタ自体に口を出す。ネタ本番もおもしろくないところは容赦なく切る。字幕を入れて笑い所を分かりやすくしたり、スベったところへのフォローとしたりする。

例えば、「めちゃイケ」ではよくやるが、ギャグがすべったときに大きく「?」の字幕を入れるとか、お客さんが引いてしまうようなことをやってしまったときに効果音と共に大きく「×」の字幕を入れるとかが、フォローになる。

ネタ終わりでは、見ていたナイナイと芸人とをガッツリ絡ませる。それ前提で出場者のスケジュールをブッキングしている。これをやるとなると収録にとことん時間がかかるので、スタジオに客は入れない。フリートークに客を入れると芸人がヘンに萎縮してしまう。

今回の「ENGEIグランドスラム」は、出場者がみんな人気者でそんなに長いことスケジュールを押さえられなかったという事情もあるかもしれないが、前述の通りネタ終わりにナイナイと絡む時間が少なすぎた。客も入っているので、あんまり長いこと絡ませるとダレてしまうという事情もあった。

しかし、そもそもあの客は、笑い声や歓声を出してもらって、「すごい芸人がすごいネタをやっている」とテレビの視聴者に「錯覚」をさせるための存在である。純粋に演出上の存在なのであって、確実に、彼らからお金をとってはいない。そして、そんなのはもう古い手法であり、ナイナイと出場者との絡みを妨げるという今まで述べてきたような弊害も生むので、次回以降は入れない方がいい。

やっぱり、結局目指すところは「笑わず嫌い」である。

あとは、既出のネタが多過ぎである。この手のネタ番組を見るのは毎年「THE MANZAI」や「キングオブコント」を見ているようなお笑い好きかと思われるが、平気でこれらのコンテストの優勝ネタがポンポン出ていた。視聴者は新ネタを期待していると思うので、そこは毎回ちゃんと作ってきてほしい。

新ネタはスベる危険性もあるので、怖がった番組側が鉄板のネタを要求したのかもしれない。ただそこは生放送でない強みを存分に活かし、事前に番組でネタをチェックして改善していけばよい。そんなに時間をかけられないなどと言うテレビマンがいたら、プロ失格である。

<2>出場者寸評

[ブラックマヨネーズ](吉本興業)

彼らが優勝した2005M-1決勝のネタ。使い回し。吉田は、やっぱり肌が思った以上に汚い。笑いに落とし込めるレベルじゃなく汚い。それは、人前に露出する芸人としては致命的なので、可哀想なのだが。

[オードリー](ケイダッシュステージ)

筆者は見たことのないネタだったが、オードリーの漫才はこの1種類しかない。何をやっても同じような感じになる。「M-1グランプリ」(テレビ朝日)で見たときはおもしろかったのだが、筆者はもう飽きている。若林のセンスと春日のキャラクターでテレビではやっていけるので、別にもうテレビで漫才をやってもらわなくてもいい。

[博多華丸・大吉](吉本興業)

「THE MANZAI 2014」の優勝ネタと雰囲気がよく似ていた。うん、それだけ。ごめん。筆者には不思議とハマらない。あんまり彼らの悪口を言いたくないんだけど。

[ロバート](吉本興業)

ネタでは毎回、秋山の珍妙なキャラクターで勝負してくるのだが、「変な人」というキャラクターは90年代に松本人志がやり尽くしているので何を見ても既視感が拭えないし、ツッコミの山本が大根である。

[ナイツ](落語芸術協会)

好きだが、ボケの塙がもうちょっと演技力を磨いた方がいいと毎回思う。「マジでボケている感じ」が今一つ足りない。

[サンドウィッチマン](グレープカンパニー)

何度も見たネタ。富澤もナイツ塙と一緒でもう少し演技力が磨けると思うんだが。

[NON STYLE](吉本興業)

優勝ネタの使い回しではなかったのは評価する。技量は高いが、石田のボケがいつも「俺おもしろいでしょう」という感じでやられるのが癪に障る。特にフラもないのに。塙や富澤みたいにマジでボケている感じでやってみたらどうか。

[矢野・兵動](吉本興業)

関東ではあまり見ない感じのしゃべくり漫才(コント仕立てではない漫才)。初っ端に客の歓声が他の芸人より少ないことを自虐できていたのには、関西芸人の余裕が感じられた。兵動が街で見たおかしな人のことを喋るというネタだったが、完全に「兵動のすべらない話」として矢野抜きでも成立する内容だった。どうしようかねえ。

[ピース](吉本興業)

準優勝した「2010キングオブコント」のネタである。このネタ自体は個人的には好きである。なんだかんだで2人とも実力はある。アレ?

[どぶろっく](浅井企画)

「あらびき団」(TBS)でゴールデンタイムで言えないようなネタを歌っていた頃が一番好きだった。「ムッツリスケベの森です。ガッツリスケベの江口です」というツカミはややウケなのにいつも入れてくるので、場の空気を読むのは苦手なのだろうか。なんというか職人的なシンガーソングライターとして見守っていればいいと思う。

[バカリズム](マセキ芸能)

おもしろかった。矢部の感想で全てが言い表されている。

[笑い飯](吉本興業)

「おまえ給食のセンター長やって」が筆者が番組を通して一番笑った箇所である。まあ、中身は「M-1」で万年優勝候補だった時の残念な笑い飯だった。前半と後半でネタがぶつ切りになってたし。

[パンクブーブー](吉本興業)

見たことあるネタである。多分売れる前に作った練りの足りないやつである。「M-1」や「THE MANZAI」で優勝した時のやつはもっと練られていた。パンクブーブーに「おっぱい」でオトしてほしくはないのだが。

[東京03](人力舎)

これも見たことあるネタ。うーん、なんというか、うーん。筆者の好みじゃないだけでしょうね。

[ウーマンラッシュアワー](吉本興業)

極端な早口で内容のおもしろくなさを誤魔化しているタイプ。

[TKO](松竹芸能)

「キングオブコント」かなんかでやってたネタだと思う。木下のフラが活かされた良いネタだと思う。変な人ではあるのだが、ロバートやエレキテル連合ほど振り切ってもいないので、キャラクターの表層的な部分だけじゃなくてきちんと中身で勝負している。

[日本エレキテル連合](タイタン)

「変な人」はやり尽くされているというのはロバートと同じ。なんか「爆笑問題」のバーターで出てきた感は否めないねじ込まれ方だった(事務所が同じタイタンである)。明美ちゃんネタではなかったが、相方のメイクは同じだったので、なんとも中途半端である。さっさと次を見つけないと消えるというのは本人たちが一番分かっているだろう。

[フットボールアワー](吉本興業)

これも見たことあるネタだったが、珍しく岩尾のフラをあまり活かしていないタイプの漫才だった。「たとえ」における語のチョイスを問題にするというネタだったので、後藤がネタを書いて岩尾に読ませているという感じが強かった。後藤のツッコミに少し岩尾へのトゲがありすぎるので、もう少し優しくしてほしい。見ている方も男前がブサイクを苛めているという構図に若干引いてしまう。「とろサーモン」みたいなことにならないように。

[爆笑問題](タイタン)

トリ。「矢野・兵動」と同じしゃべくり漫才。あんまり太田のムチャクチャさやブラックさが出ていなかったので、もっと暴れてほしかった。

最後にもう一度言うが、なぜナインティナインは漫才をやらなかったのか。

 

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高橋維新(たかはし・いしん)弁護士、コラム二スト。1987年、東京生まれ。2006年、東京大学法学部入学。2010年より「マヒ郎」のペンネームでファミ通町内会へ「ハガキ職人」として投稿を始める。現役ハガキ職人を続けながら、2012年に司法試験合格。2013年、弁護士登録(函館弁護士会)。ファミ通町内会長(第5代)。