都民ファーストの国政進出が次期総選挙に与える影響 -植草一秀
植草一秀[経済評論家]
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7月2日の東京都議選における安倍自民党の歴史的惨敗は、安倍政権崩壊、安倍首相退場へのカウントダウンの始動を意味する。
議席総数127のうち、自民党が獲得した議席は23である。議席総数の5分の1に満たなかった。都民ファーストは公認候補が49、推薦候補が6当選し、総数55を獲得した。都民ファーストと選挙協力を行った公明党は23人の候補者全員の当選を果たし、都民と公明の合計は78議席に達した。都議会過半数は64で、都民と公明は過半数を大幅に上回る議席を獲得したのである。
2014年12月の衆議院総選挙で安倍自民党が獲得した票は、主権者全体の17.4%でしかなかった。公明党が獲得した7.2%の得票を合わせて、自公合計で24.7%の票を得ただけである。
ただし、投票率が52.7%で、選挙を棄権した主権者が半分いたため、この得票で自公は衆議院議席総数475の68.4%にあたる325議席を獲得。自民党は議席総数の61.1%にあたる290議席を獲得した。自公は議席総数の約7割を獲得、自民単独でも議席総数の約6割を獲得したため、安倍自民が圧倒的な国民支持を獲得したかのような錯覚が生まれているが、事実は違う。
「安倍一強」はメディアが流布している「フェイクニュース」に過ぎない。自民党の多数議席は公明党の選挙協力によってもたらされたものであり、公明党が他党候補を支援すれば、選挙結果は激変する。
今回の都議選結果はこの事実を鮮明に物語っている。2014年衆院総選挙で自公が多数議席を獲得したもう一つの理由は、自公と対立する陣営が、候補者を一人に絞れなかったことにある。衆議院選挙は当選者が1人の小選挙区を基軸に実施されるため、選挙区の候補者を一人に絞り込めるかどうかが勝敗のカギを握る。
自公が候補者を一人に絞り込んだのに対して、反自公勢力は複数候補を擁立して、負けるべくして負けた。この事実を踏まえて次の総選挙に向けての戦術を構築しなければならない。
今回の都議選で民進党が獲得した議席はわずかに5議席である。議席総数の8%にも満たない議席数である。もはや、民進党のプレゼンスは完全に消滅したと言って過言でない。民進党の前身である民主党は、2009年の都議選で54議席を獲得して都議会第一党の地位にあった。これが2013年の選挙で15議席に激減、今回はその3分の1の勢力に収縮したのである。
安倍政治に対する国民批判が一気に高まったが、民進党は安倍政治打倒に向けての主権者の期待をまったく集めることができなかった。その一方で共産党は2009年の8議席から2013年の17議席、今回の19議席と着実に議席数を伸ばしている。安倍政治打倒の主権者の声を確実に吸収してきたのは共産党であると言える。
焦点は、次の総選挙に向けて、都民ファーストが国政進出を果たすのかどうかである。完全な泥舟となった民進党からは、小池新党に飛び移ろうとする者が続出するだろう。米国の支配者が主導して創設が試みられてきたのが日本の第三極勢力である。
これは、自公政治を批判する主権者の支持が、本当の反自公勢力に集中することを防ぐための勢力である。2006年に民主党代表に小沢一郎氏が就任して、民主党の大躍進が始まった。小沢-鳩山両氏が主導した民主党は、日本政治の基本構造を刷新する可能性の高い、真の反自公政治勢力であった。
この小沢-鳩山民主党に主権者の支持が集中しないように、人為的に創作されたのが「第三極」勢力だった。渡辺喜美、橋下徹、石原慎太郎、江田憲司などの諸氏に第三極勢力を担う役割が付与されてきたが、巨大な広告宣伝費が投下されたにもかかわらず、所期の目的は達成されずに来た。最後に起用された小池百合子氏が予想以上の成果を挙げているのが現状である。
この小池新勢力にこれまでの第三極勢力が合流しようとしている。同時に、民進党内の「隠れ自公勢力」もこれに合流しようとしている。しかし、この新勢力には最大の弱点がある。それは、この勢力の本質が「隠れ自公勢力」であること。自公と極めて強い同質性を有していることである。
この点を踏まえた総選挙戦略の構築が極めて重要になる。
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