古舘伊知郎『MC論』からの偏愛的「司会者論」(5)安住紳一郎、羽鳥慎一、岡江久美子、薬丸裕英
高橋秀樹[放送作家/発達障害研究者]
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『古舘伊知郎「MC論」からの偏愛的「司会者論」』もいよいよ最終回の第5回。今回は安住紳一郎、羽鳥慎一、岡江久美子、薬丸裕英について取り上げます。
*安住紳一郎「(古舘本)嫌味にならない<いなし>の使い手」
安住くんのことを語るときには少し意地悪になってしまうことを許していただこう。安住くんは、いつも機を見るに敏、目端の利く人というのがその理由である。だが、機を見るに敏で目端の利くことは、司会者に欠かせない資質でもある。
安住くんのキャスティングはいつも難しい。と言ってもTBSの社員だから、TBSの局内キャスティングである。それでも難しい。安住くんの隣にはいつも大物がいる。
『金スマ』では中居正広
『新・情報7daysニュースキャスター』ではビートたけし
『からくりテレビ』では明石家さんま
『ぴったんこカン☆カン』では誰もいないように思うがあのカエルの中はTBSの取締役である。それ以外は『日本レコード大賞』などの大型特番である。だからどうしたのだという意見もあろう。
安住くんは、10月から、TBS朝のベルト番組『THE TIME,』の司会である。金曜の司会は香川照之さん。またしても大物である。毎日見てほしい番組は少しでも嫌なところは丁寧にそいで磨いていく必要、つまり見ていて嫌ではない、消極的な視聴者を得ることが大切なこともあるだろう。
*羽鳥慎一「(古舘本)MC界のファブリーズ」
かつてはずっと、『あさイチ(NHK)』を見ていたが、コロナ以後は『羽鳥慎一モーニングショー(テレビ朝日)』を見ている。テレビはずっと自前の(自局での)コメンテーター育成を怠っていて、新聞社や通信者に頼っており、そこが報道としての二流感につながっていた。
テレビ朝日は今もこの番組で、迷いなく自分の意見を押し通す(その裏には綿密な取材と、調査があるわけだが)自局社員・玉川徹を育て続けている。他局は見習うべきだ。その個性の強い玉川と、対立するゲストの間を取り持ったり、長嶋一茂の言葉足らずや、出過ぎた発言を、番組の流れを途切れさすことなく進行しているのが、羽鳥慎一である。
かつて私は爆笑問題の田中裕二さんを日本一の危機管理能力を持つと評したが、今現在は、教養部分も加味して羽鳥くんが随一である。羽鳥くんのスクエアさとバランス感覚を見たあとだからか、つい続けて見てしまう『じゅん散歩(テレビ朝日)』の高田純次のいい加減さが心地よい。
*岡江久美子・薬丸裕英(古舘本に記載なし)
私が『はなまるマーケット』に、呼ばれたときには、もうすでに2人のキャステイングはほぼ決まっていた。薬丸くんのキャステイングに難色を示したが、これは全く、私の印象批評による間違いだった。薬丸くんは、石川秀美さんと営む家庭で、洗剤などの在庫管理を完璧にこなす主夫でもあったのである。
帯番組はスタッフが「守りやすいコンセプト」を掲げることが大切だが(やりたい番組のコンセプトとは一致しない)この番組では外的圧力でコンセプトは、すでに決まっていた。「ワイドショーではないこと」である。
[参考]『週刊さんまとマツコ』はなぜそっちへ行った?残念な理由
オウム真理教関連の不祥事(1989年、TBS「3時にあいましょう」のスタッフがオウム真理教を批判する坂本堤弁護士のインタビュー映像を放送前に同教団幹部に見せたことに端を発する坂本弁護士一家殺害事件)で、TBSはワイドショーを全廃することを決めていた。その象徴たるべき役目を負った番組にせねばならない。否定のコンセプトは珍しいが、「ワイドショーではない」ことは、実はわかりやすい。既存のワイドショーでやっている企画はすべてやめる、ワイドショーの語り口から脱却する。それがコンセプトだ。その番組のトレードマークを担ってもらうのが岡江さんと薬丸くんである。
帯番組は、ほとんどがキャスティングで成否が決するものなんだなあ。と思ったのっは、順調に視聴率が伸びて2か月くらい経った頃である。もちろん、成功するための仕掛けは、ほかにもいくつか、スタッフで考えていた。
一つは、岡江さんより年上の人をレギュラー出演者にしないこと。
一つは、リポーターという呼び名をやめること、花まるアナと呼び、取材・調査に自ら加わること
一つは、スタッフに女性をできる限り多く入れること(半分以上にはできなかった)
社運をかけた(と上層部が思っていたかどうかは知らないが)、とにかくやらなければいけない番組ではあったので、要望はほとんど叶えられた。
そして最後の要望。番組冒頭に、冒頭でなければ意味がないのだが、岡江さん薬丸くんのフリートークの時間を2分間設けること。通常ワイドショーの冒頭はショッキングなVTRで始まる。悠長に挨拶なんがしていたら視聴率を他局に持っていかれる。でも、岡江・薬丸フリートークに2分の時間をもらう。私は他の4人の立ち上げスタッフの前で力説した。
「何にも考えないでスタジオにやってくる出演者に、僕はさんざん苦労させられてきました。そんなヤツは許せない。だから、岡江さん薬丸くんには、話すことを考えてスタジオに来てほしい。考えてきてもらうのに時間を作らないのは失礼だ。だから、一番番組で大切な場所、冒頭に時間がほしいんです。フリートークで始めたいんです」
きっと反対されるかと思って話していた。ところが全員一致の賛成。この手法を私は他の番組でもやってみていた。ところがフリートークができない出演者は多い。ことごとく失敗した。台本を書いたのではなんにもならない。あくまでフリートーク。
岡江さん、薬丸くんでも、できないかもしれない。全員、心配していた。ところができたのだ。できたどころか面白い。しかも、喋っている間に分刻みの視聴率がどんどん上がってゆく。フリートークは2分どころか、4分にも5分にも伸びていった。
ここで話されるのは多くが2人の身辺雑記。岡江さん、薬丸くんが芸能人であると同時に生活人だからできた、いわば主婦の立ち話。視聴者はその立ち話に参加したがってくれたということだ。
岡江さんは特に芸能人としての気配が消せる人でした、ラーメン屋の行列に並んでいても、本屋で立ち読みしていても、気づかれない。オーラが消えている。そんな逸材がコロナで亡くなったのは、実に残念なことです。
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