<ドラマ『おやじの背中』尾野真千子のセリフに共感>「ずっとお父さんの言うとおりにしてきて、それなりに順調だったけど、ずっと我慢してきた」
黒田麻衣子[徳島テレビ祭スタッフ]
***
TBSの日曜9時『おやじの背中』が良い。
日本のドラマを牽引してきた10人の脚本家と、名優のコラボ。ドラマ好きにはたまらない。スタッフとキャストを眺めるだけで、ワクワクが押さえきれなくなる。
このドラマを見始めて、初めての「体験」をした。ドラマを観ながら、父を思い出したのだ。
アラフォーの筆者は、父と離れて暮らし始めて、もう結構な年月が経っている。たまに食事をともにする時、今見ているドラマを話題にすることもある。同じドラマを観ていると、共通の話題になるから、ありがたい。
しかし、だからと言って、ドラマを観ながら「今、父もこのドラマを見てるかしら」なんて気持ちの悪いことを考えたことは、今まで一度もなかった。
『おやじの背中』は、父と子の物語だ。さまざまな背景を持つ父子が織りなす、10通りのストーリー。自分とちょっと似ているな、と思う「子」もいれば、父に似ている「父」もいた。自分とはまったく重ならない「父子」の回もあった。
どの回にも必ず、
「あー。わかる。私も、そう思ってた」「あー。わかる。うちの父もこんなだった」
があり、そのたびに
「今、これを見ている父は、何を思っているだろう」
「あのとき、私が父に発したことばの意味を、父は今、このドラマを通して、感じてくれてるのかな?」
などと、思ってしまうのだ。
筆者は、特に、第6話「父の再婚、娘の離婚」(橋部敦子脚本)のセリフに共感した。
ドラマ中盤、娘の結婚相手に不安を覚える父が、心配のあまり、娘の結婚生活に口を挟む。ただただ「自分の思い通りにしたいだけ」の父にキレた尾野真千子演じる娘が、國村隼演じる父に向かって言い放つ。
「いつもそうでしょ。進学だって就職だって私のことはお父さんの思い通りにしてきたじゃない」「結局、お父さんの言うとおりにしてきた」「ずっとお父さんの言うとおりにしてきて、それなりに順調だったけど、ずっと我慢してきた」
いちおう補足すると、私の父は再婚しないし、娘の私は離婚どころか結婚すらしていない。しかし、これは、かつて筆者が父に放ったセリフそのままであった。筆者は、5年前、公立高校教諭という安定した仕事を捨てて、独立開業した。当然、父には猛反対されるとわかっていた。
わかっていたから、相談もしなかった。反論される前に、「辞めるから」という報告とともに、上記のセリフを一気にまくし立てた。電話の向こうで、父はたぶん、絶句していた。はじめて「父の意向」に背いた生き方を選んだ娘に、父は何も言わなかった。あの時、なぜ父が私を怒鳴りつけなかったのか、未だに謎だ。
ドラマの中で、このセリフを娘から突きつけられた父は、娘に「すまなかった」と謝罪し、
「ななみ(娘の名)の言う通りだ。オレはななみを、自分の思い通りにさせようとしていた」「ななみのためと言いながら、自分が安心したいためだった」
と懺悔した。
私の父も、そんな思いを抱えていたのだろうか・・・。
『おやじの背中』は、日本が誇る10人が紡いだ脚本だけあって、それぞれ、状況はまったく違えど、そこにあるセリフは、とても普遍性に満ちている。たぶん今日も、日本中に、筆者と同じように、自分の親子関係を見つめ直している人が、いっぱいいることだろう。
もしかすると、「そろそろオヤジの顔でも見に帰るか!!」なんて、帰省を決めた息子がいるかもしれない。そういえば、なかなか実家に顔を見せない筆者の弟も、今夏は珍しく帰省してきた。もしかしたら、弟も『おやじの背中』を見ているのかもしれない。
「家族」「親子」の尊さを、静かに問いかける珠玉のストーリー。
きっと、多くの人の心に何かを感じさせているだろうに、大きなブームにならないところが、『おやじの背中』らしくて、良い。
【あわせて読みたい】
- <テレビ・ドラマは時代を映す鏡>最近のドラマは恋愛ドラマが少なく、ロケも居酒屋ばかり?
- <未来のドラマ製作者よ、これは見ておけ>鎌田敏夫・脚本「俺たちの旅」、向田邦子・脚本「時間ですよ」、山田太一・脚本「岸辺の<「テレビドラマを書く」という能力>40年近い放送作家人生で、なぜドラマを書かないのか?書けないか?
- <月曜8時にドラマは見ない!>TBSドラマ『ペテロの葬列』『名もなき毒』はなぜ低視聴率なのか?
- <未来のドラマ製作者よ、これは見ておけ>鎌田敏夫・脚本「俺たちの旅」、向田邦子・脚本「時間ですよ」、山田太一・脚本「岸辺のアルバム」
- <このまま低視聴率と批判の嵐の中で終わるのか?>『北の国から』の杉田成道監督が投げ続ける直球ドラマ『若者たち2014』