<「王道RPG」って何?>鳥山明と勘違いするようなイラストを臆面もなくテレビに流す「SKYLOCK」は誇大広告

デジタル・IT

八坂亮[ゲームクリエイター]
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最近、「王道RPG」という言葉をよく耳にする。今まで全く使われなかった言葉ではないが、テレビCMで頻繁に扱われている事もあり、この言葉が気になっている方も多いのではないだろうか? 今回はこの「王道RPG」について考えてみたいと思う。
1. 「王道RPG」の意味とは?
そもそも、「王道RPG」と言われてどういったゲームを思い浮かべるだろうか?
恐らく大多数の人々が『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』といった日本のRPGの歴史を作ってきたタイトルを思い浮かべる事と思う。「王道」という言葉を辞書で引くと「定番」「定石」といった意味が出てくるため、「王道RPG」=「定番RPG」と解釈すると言葉の通りに上記のタイトルを思い浮かべるのはあながち間違ってなさそうだ。
2. 「王道RPG」という言葉の意図?
ここで、「王道RPG」という言葉を発信しているゲームを例に更に深く考えてみようと思う。
今、元も「王道RPG」と世に発信しているゲームは、株式会社gloopsが手掛けた『SKYLOCK神々と運命の五つ子』(以下、SKYLOCK)というモバイルゲームだ。日夜、テレビCMを放映しており、目にした事がある人も多いだろう。
SKYLOCKのCMを観てみると、登場するキャラクターが人気漫画家の鳥山明風になっている事に気がつく。それも、人物の描き方だけでなく、着色の仕方までそっくりに真似ており、CMだけチラっと目にした人は、鳥山明関連の新作と勘違いしかねないレベルだ。
鳥山明といえば、前述の『ドラゴンクエスト』のキャラクターデザインを務めている人物であり、細部まで似せる事でSKYLOCKのCMを観た人に『ドラゴンクエスト』を想起させる狙いがあるのは間違いなさそうだ。
『ドラゴンクエスト』の力は今もって絶大であり、普段ゲームはやらないが、『ドラゴンクエスト』なら遊ぶという人は多く存在する。SKYLOCKはそういった「ドラゴンクエストならやる!」ユーザーの獲得を真剣に狙ったゲームなのだろうと思われる。
であれば、「王道RPG」というキャッチフレーズは『ドラゴンクエスト』を想起させる為に使っているわかりやすいキャッチコピーに過ぎず、「王道RPG」=「定番RPG」という解釈は、どうやら正しいようだ。(そもそも、鳥山明と勘違いするようなイラストを臆面もなくテレビに流す事の是非については別の機会に話をしようと思う。)
3. 今の時代だから効果を発揮する言葉
「王道RPG」という言葉が、なぜ今さら散見されるようになったかについては、昨今のモバイルゲームの変遷の中に答えがあるように思う。
ここ数年、モバイルゲームにおいて一時代を築いたのは『ドラゴンコレクション』や『探検ドリランド』といったカードゲームのように戦う駒を集めて冒険する、いわゆる「カードバトルRPG」というジャンルだ。
現在でもそうだが、ソーシャルゲーム業界では好調なゲームの内容をコピーして見た目を変えて量産する手法をとっており「カードバトルRPG」も数多くの会社から無数のバリエーションが登場している。最早モバイルゲームにおいて「RPG」と言えば「カードバトルRPG」を指すという風潮すら出来上がっていた。
ところが、同じようなゲームが量産された結果、このジャンル自体が飽きられてしまい、最近ではモバイルゲームのRPGを手にとってくれるプレイヤーも減りつつあるのが現状だ。ただし、カードバトル系RPGが飽きられているのであり、RPG自体が飽きられているわけではない。そこで、RPGではあるが、カードゲームではないというわかりやすい差別化ができる「王道RPG」という言葉が使われているのだろうと思われる。
このように、最近いろいろな所で「王道RPG」という言葉を見かける事が多くなった理由は、モバイルゲームが積み重ねてきた時代性と密接な関係があると言えるだろう。
4. SKYLOCKは王道RPGなのか?
しかし、ここで疑問がある。「真の王道RPG」を謳っているSKYLOCKは本当に王道RPGなのだろうか?
実際にプレイしてみたが、あまりに今までのモバイルゲームすぎて逆に驚いた。形としては今までのカードバトル系と大きな差は無く、ただ著名な作家や声優を使っただけに感じた。フィールド移動は同じボタンを連打するだけ、せっかくキャラクターを立たせる為のシナリオを作っているのにバトルは主人公たちと縁もゆかりもないモンスターに戦わせる等、「真の王道RPG」と聴いてから手に取ると肩透かしに合うような内容ばかり。
スマートフォンで『ドラゴンクエスト』が遊べるだけに「思っていた物と違うな」という印象はぬぐえず、「真の王道PG」は誇大広告であるように思う。
スマートフォンのパワーアップに合わせて『パズル&ドラゴン』や『テラバトル』等のゲームらしく遊べる物も増えてきたが、SKYLOCKのように、一昔前のままの形を引きずって表現だけをパワーアップさせたような物もまだまだ存在する。
勿論そういったゲームにもまだまだユーザーがいるからこのような形になっているので、どちらのタイプの遊びもユーザーが選択できる事は良いと思うが、誇大広告を打つ等、ユーザーにとって真摯ではない姿勢はどうも納得ができない。
一度肩透かしな印象を受けたユーザーはもう二度と手に取らないだろうし、長い目で見ると少しずつユーザーを食いつぶしている行為に等しいのではないだろうか。ユーザー獲得や課金率の向上のために分析を行うのも良いが、宣伝している事に恥じない内容でゲームをリリースして欲しいと思うばかりだ。
 
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