岡田斗司夫さんの「キングコング西野さんの『クラウドファンディングで絵本作り』は間違っている」は間違っている。


藤本貴之[東洋大学 准教授・博士(学術)/メディア学者]

***

作家の岡田斗司夫さんが、現在、キングコング・西野亮廣さんが進めている「クラウドファウンディングで制作費を集めて、トップクリエイターによる完全分業制で絵本を製作する」というプロジェクトに「時代遅れだ」と批判し、苦言を呈している。

しかし、岡田さんの指摘・批判はいずれももまったくもって的を得ていないものであり、ちょっと驚かされた。筆者は、西野さんのクラウドファウンディングによる創作活動に関心をもち、先日も今回のプロジェクトについて簡単なインタビューを出したばかりだ(http://mediagong.jp/?p=10043)。

54014

西野さんの方向性ややりたいことはそれなりに理解した上で、的を得ない岡田さんの論旨の問題点を指摘したい。

岡田さんが西野さんのプロジェクトを批判する理由を簡単にまとめると以下である。(「探偵ファイル」を参照:http://linkis.com/www.tanteifile.com/d/RcvMu)

  1. 絵本を分業制で作る試みは、すでたくさんにある。
  2. 乗り物や昆虫などの子ども向け図鑑は1人の作家が作る方が珍しい。
  3. 大手出版社が量産する「アニメっぽい絵本」は完全分業制が当たり前。

マンガ家や映画監督、大人向けの絵本などは作家性が強く、「作家性が失われる」という理由から一人(あるいは少数チーム)で作りたがるのだという。

さて、そんな「岡田さんの批判」に対する指摘だ。

まず、「乗り物や昆虫などの子ども向け図鑑」は絵本ではない。今回の記事で引き合いに出している理由さえ不明である。そんなことを言い出したら、週刊誌だって、辞書だって一人では作らない。

次に、「大手出版社が量産する子供向け絵本はほとんどが分業制」という岡田さんの指摘であるが、今回の西野さんの企画が「大手出版社が量産する」ものかどうかは明らかではない。しかも、これまでの作風を考えれば「子供向けのアニメ絵」ではなく「作家性の強い大人向け絵本」だろう。

しかし、「作家が一人で作ることの多い(それが適している)作家性の強い大人向け絵本」であっても、西野さんは、

「子供や、その他大勢の方からすると、『誰が作ったか?』なんて本当にどうでもよくて、『何を作ったか?』だと。つまり、出来あがったものが全てで、それ以外のことはどうでもいい。」(西野さん)

・・・という観点に立っている。

この観点に立った上で、岡田さんが言うところの「作家が一人で作ることの多い作家性の強い大人向け絵本」を「完全分業」で製作し、作家性を超えた「作品としてのクオリティ」を目指す絵本を製作しよう、というのが今回の西野さんの企画だ。

これが「世界初か、どうか」はさておき、十分に新規性はあるように思う。少なくとも、そういった「一人で作るに適したものを分業で」と「クラウドファウンディング」の2つを抱き合わせて、「高クオリティの絵本」を完成させようとする方法は、挑戦的・実験的でもあるし「日本初」だと思う。

しかし、岡田さんは、次のようにも述べる。

「それにクラウドファンディングなど使わなくても、西野さんの原作や文章が本当に素晴らしければ、ギャラなど後回しで参加するクリエイターは多いはず。」
「クラウドファンディングとは、作品を作ること自体に膨大なコストのかかるアニメや映画、または工業製品にこそ向いている方式なのに。なんで『コストの低い絵本作り』にその手法を使おうとするんだろうね?」(岡田さん)

岡田さんは、西野さんのクラウドファウンディングの提案文章を読んでいるのだろうか? まさかとは思うが、ネット記事のタイトルだけでを読んで、理解したつもりで評論していないと信じたい。

「クラウドファンディングとは、作品を作ること自体に膨大なコストのかかるアニメや映画、または工業製品にこそ向いている方式」という認識は正しい。それでは、人材への対価は「コスト」ではないのか。コンテンツ製作で人件費が占める割合が多いことは岡田さんだってよくご存知のはずだ。

一芸に秀でた有能な人材を確実に揃えるためには「膨大なコスト」がかかる。岡田さんの考えで言えば、

「人材や才能への投資は『コスト』ではない」

とでも言いたいのか。あるいは、

「西野さんに魅力があったら、どんな人材でも無料で来るはずでしょ! 無料で有能な人が来ないのは、あなた(の企画)に問題があるからでしょ!」

とでも言いたいのだろうか。筆者には、そう言っているようにしか読めない。

言うまでもなく、人間関係や魅力や温情、善意・・・といった情動的で刹那的なエネルギーに依存したビジネスは成立しづらい(失敗しやすい)というは世の常だ。もちろん、人間関係によって、経費を抑えたり、便宜を図ってもらうことはあろうが、本質的には「膨大なコスト」がかかる。これをコストと考えず「コストの低い絵本作り」と言い切る思考には驚きだ。

これは、自分に取り巻く人材は「タダで使える」と宣言しているようなもので、人材育成での悪癖を正当化させるだけでなく、しかるべき作業やしかるべき才能への「正当な対価」を見えずらくする危険な発想であるように思う。

能力や仕事に対して正当な評価と正当な対価を与える、ということは、クリエイティブ産業にとって最も重要な要素の一つだ。日本ではそういうものがなかなか育まれてこなかった。「物質的でないものは無料」と考える風潮が、クリエイターを先細らせる原因の一つにもなっている。

岡田さんの「才能は膨大なコストではない」という発想こそ、時代に逆行する「時代遅れ」な考えである。むしろ、西野さんの「正当な対価に膨大なコストをかけたい!」という宣言は、現在の日本のクリエイティブ産業にもっとも必要とされている要素であろうし、その資金を広くクラウドファウンディングによって集めようとする試みは、クリエイティブ産業育成の大きなヒントになるように思う。

なお、岡田さんの記事の最後の一文は、ご自身の主張と矛盾しているのではないか。

「キングコングの西野さんは、クリエイティブではなく企画段階で、もっと優秀なスタッフを探して討議を重ねた方がいいと思う。」(岡田さん)

その優秀なスタッフに正当な対価を与えるためにだって「膨大なコスト」がかかるのではないか。コストとは「工業パーツ」や「ライン業務」だけではない、ということを理解すべきだ。

名作「王立宇宙軍 オネアミスの翼」(1987)の企画者として豊かな才能を持つ岡田斗司夫さんなら、それは理解しているはずである。

 

【あわせて読みたい】

The following two tabs change content below.
藤本貴之(ふじもと・たかゆき) 東洋大学総合情報学部・准教授(情報デザイン論・メディア構造論)/北陸先端科学技術大学院大学・教育連携客員准教授/藤本情報デザイン事務所・執行役員/JAGDA正会員/最先端のメディア研究・メディア技術の知見から、アカデミズムの枠を超え、企業や自治体などを対象としたメディア設計や情報発信戦略など、数々の実践的なプロジェクトを手がけている。主な著書に『情報デザインの想像力』『脳にアイデアを思いつかせる技術(講談社)』『映像メディアのプロになる!(河出書房新社)』など、多数。