<「安保法制は違憲」に「百田尚樹氏の暴言問題」…。>新聞によってあまりに違うニュースの書かれ方

政治経済

両角敏明[テレビディレクター/プロデューサー]
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6月4日の衆議院憲法審査会で参考人がそろって安保法制を違憲と断じた大(?)ニュースですが、翌日の産経新聞を見てびっくりしました。なにせ見出しが、

「押しつけは歴史的事実」「GHQ憲法」めぐり参考人質疑 衆院憲法審

記事本文も、

「また、3氏は憲法解釈の変更によって集団的自衛権の行使などを容認する政府・与党の手法に否定的見解を示した。」

という文章でしたから、産経新聞の読者はなぜ世の中が違憲! 違憲! と大騒ぎになっているのか理解できたかどうか・・・。
6月25日、安倍総理に近いと言われる自民党若手議員の勉強会で、参加した自民党議員と講師として招かれた百田尚樹氏の発言を各紙が26日に取り上げました。大きく報じられたのは一日おいた27日の朝刊です。
朝日・毎日は1面+α。読売も3面で、

「自民若手勉強会 看過できない『報道規制』発言」

というタイトルの社説、加えて4面ではこの勉強会の経緯と、参加議員や講師である作家・百田尚樹氏の問題発言を具体的な文言を示して伝えています。
一方で、この問題についての産経新聞(27日朝刊千葉版より)の記事はユニークです。記事は5面にあります。見出しは以下。

「首相、改めて成立決意もまた難題
報道批判・・・火消しに奔走  与党 失言にピリピリ
『言論の自由への挑戦だ』  野党 首相の責任追及」

内容ですが、書き出しの15行はこの暴言問題ではなく、この日安倍総理が衆院平和安全法制特別委員会で発言した内容が紹介されています。その後にようやく自民党若手議員の勉強会での暴言騒動に触れて行くのですが、以下はこの記事から抜いたフレーズです。

  • 勉強会「文化芸術懇話会」の会合で、出席議員から報道機関を批判する意見が相次いだことなどに野党が反発し
  • 政府・自民党は党若手議員の勉強会で出た報道批判など「軽率発言」の火消しに追われた
  • 野党は26日、メディアへの圧力ともとれる発言が出た勉強会を一斉に批判した

こうした事実関係にふれた後、この記事はアクロバティックな展開を見せます。

  • 民主党は(筆者中略)格好の材料を得た形だが、逆に「国会での暴力を認めない同党幹部の矛盾をあぶり出す指摘も相次いだ
  • (民主党の)辻本氏は(筆者中略)民間人の百田氏の発言の真意を首相にただす筋違いの質問も連発した
  • こぞって首相の責任を追及する民主党だが(筆者中略)衆院厚生労働委員会で起きた同党議員の実力行使による審議妨害には一切謝罪していない

と、記事は民社党批判に転じ、そしてこう結論づけられます。

  • 「党総裁として始末を明確にやるべきだ」と首相に迫った岡田氏は自らの責任に目をつむったままになっている

自民党若手議員や百田氏の「暴言」(産経新聞では「軽率発言」)について野党が首相の責任を追及しているという記事は18行を費やしての民主党批判になり、結論は、「岡田氏は自らの責任に目をつむったままになっている」と結ばれるという、ちょっとびっくりの展開なのです。
しかしながら、筆者がこの記事で驚いたのはこのアクロバティックな展開だけではありません。この記事には新聞として重要なものが決定的に欠けていることに驚きました。
前日26日朝刊5面の小さな記事で百田氏の具体的発言内容が否定的でも肯定的でもなく紹介されていますが、発言問題を取り上げた27日朝刊のこの記事中には、

「報道機関を批判する意見
報道批判など『軽率発言』
メディアへの圧力ともとれる発言」

があったと書かれているだけで、

「マスコミを懲らしめるには広告収入がなくなるのが一番だ」
「沖縄の二つの新聞社は潰さなければいけない」

等々の具体的発言はひとつとして書かれていません。これでは、彼らがマスコミをどう批判したのか、どのような軽率発言だったのか、どういう言い方がメディアへの圧力だったともとれるのか、など読者は判断のしようがありません。
発言が問題になったニュースでその発言を伝えない報道ってあるんでしょうか。今回、問題になった文言を具体的に伝えていない新聞記事やテレビニュースに筆者はこの産経新聞以外に接することはありませんでした。
これでは産経新聞の読者はこの問題の「肝心要のところ」が理解できないのではないでしょうか。とくに自民党議員の発言内容は、各社が伝えているのに産経新聞だけが具体的発言を掴んでいなかった、なんてことは考えられませんから、これはひょっとして産経新聞の「意図的トクオチ」なのかもしれません。
問題発言があった日の深夜、テレビ朝日「朝まで生テレビ!」の冒頭で、予定されていた自民党議員と公明党議員が急に欠席となった経緯を田原総一朗さんと番組プロデューサーが説明していました。
自民党議員は急に病気になり、公明党議員にはスケジュールの都合がつかないと断られた、といった説明でしたが、説明する方もされる方も、そんな理由を信用していないのは明らかでした。これに関して産経新聞のこの記事中にこんな一文がありました。

「自民党副幹事長会議では(筆者中略)民放番組に若手が出ること自体リスクが高いとして、テレビ出演自粛を検討することを確認」

筆者はこの記事によりドタキャン騒動の真相を窺い知ることが出来てスッキリしました。
発行部数160万を越える堂々たる一般紙である産経新聞のみなさま、新聞には、まずは事実をできるだけ客観的、具体的に書いていただけると読者はとても助かります。
御社のご意見や姿勢の方は、「その上で」ということでよろしくお願いできないものでしょうか。それから、できればアクロバットの方もほどほどに・・・。
 
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