<元海上自衛隊トップ・海将が緊急提言(2)>平時に他国の仲間を助けることができるか ?!


伊藤俊幸[元・海上自衛隊 海将]

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前回は武力行使3要件のカナメである「必要最小限度の実力行使」について書きましたが、今回は「所謂グレーゾーン事態に他国の仲間を助けることができるか」です。

その前に前回の「必要最小限度の実力行使」について復習します。我が国は直接武力攻撃された場合であっても、相手国領土に行って反撃することはできません。あくまでも攻撃してくる相手国兵力だけを排除するのが「我が国の武力行使」です。

我が国領海・領空・領土および公海上又はその上空に存在し攻撃してくる相手国兵力(軍艦、軍用飛行機等)がこれに該当します。当該兵力が相手国領海や領空に入ってしまった場合は米軍に委ねるしか対処方法はありません。

さて昨年2014年7月の閣議決定でこれが次の新3要件に変わりました。

  1. 我が国に対する武力攻撃が発生したこと、又は我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること
  2. これを排除し、我が国の存立を全うし国民を守るために他に適当な手段がないこと
  3. 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと

つまり2、3は基本的に変わらず、1に「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」の要件が加わりました。昨年来この文言によって「米国の戦争に付き合わされる集団的自衛権じゃないか」との非難が起こりました。

しかし、この文言の後ろには「これにより我が国の存立が脅かされ・・・明白な危険」という、我が国防衛に関わるか否かとの条件が付いているのです。

では「他国に対する武力攻撃」が我が国の防衛に関わるとはどんな場合でしょうか? これを「他国軍隊に対する武力攻撃」と読み替えると理解できます。例えば再び朝鮮戦争が勃発、それが波及し北朝鮮が日本に向けて大陸間弾道弾を発射する切迫した危険が生じたとします。

この場合まだ所謂「日本有事」ではないのですが、ミサイル防衛のため海上自衛隊と米海軍のイージス艦は配備されるでしょう。このような状態を所謂「グレーゾーン事態」といいます。

そして、他国軍隊が我が国を守る状態が生起するのです。仮にこの状態で北朝鮮の潜水艦が米艦艇を攻撃したとします。旧3要件の下では海自の部隊は当該米艦艇から敵潜水艦を排除することはできません。

このように、これまでの考え方だと、我が国が直接攻撃される所謂「日本有事」以外では、我が国を守ってくれている他国の仲間に降りかかる火の粉すら払ってあげることもできないのです。

 

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伊藤俊幸

伊藤俊幸(いとう・としゆき)元海上自衛隊トップ・海将。 昭和33年生まれ。防衛大(機械工学)卒業。筑波大学修士課程修了。海幕防衛部防衛課(平成6)、潜水艦あらしお副長兼航海長(平成8)、潜水艦はやしお艦長(平成9)、外務事務官(平成11)、第2潜水隊司令(平成14)、海幕監理部総務課広報室長(平成15)、海幕指揮通信・情報部情報課長(平成18)、情報本部 運用支援担当情報官(平成21)、海幕指揮通信・情報部長(平成22)、海上自衛隊 第2術科学校長(平成23)、統合幕僚学校長(平成25)を経て。平成26年、呉地方総監。平成27年退職。