<特殊な「&」は売ってます>「&TOKYO」パクリ認定は早計だが「疑惑の土壌」形成という現実


藤本貴之[東洋大学 准教授・博士(学術)/メディア学者]

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10月9日に東京都が発表した海外向けの東京ブランドPRロゴ「&TOKYO」が、海外に存在する既存ロゴと酷似しているという指摘が早速相次いだ。

フランスのメガネブランド「Pulg&See」や、ニュージーランドの弁護士事務所「JONES&CO」のロゴが、色彩や「&」を利用した部分などで「酷似」があるという。

既に撤回となった佐野研二郎氏のエンブレム騒動では、ネット民たちの緻密な「検証」がいかんなく発揮され、粗探し的な面も含め大いに機能した。その是非はさておき、筆者はネット民たちの探索能力を一程度評価しているものの、今回は・・・といえば、さすがに恣意的で早計すぎると言わざるを得ない。

確かに、利用されている「&」は一般的に見る「&」とは少々デザインが異なる。通常のワープロソフトなどで利用する時に目する「&」とは異なり、「&」の一部が切れており、一般的な「フォント(文字・書体)」を利用したとは言いがたいように見える。

つまり、単に「円の中に&を置いた」とは言えないわけだ。そう考えれば、デザインが「一般的」ではない以上、そのデザインには類似や模倣があるのでは・・・という指摘も当てはまるように思う。

しかし、この一部が切れている「&」のデザインはそれほど珍しいものではなく、巷にあふれるデザイン類を見れば、よくある「&」だ。そもそも、自分でデザインした「&」である必要もなく、市販されているフォントにも存在し、よく利用されている書体だ。

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参考までに「Abadi MT」というフォントにある「&」を図に示す。これは騒がれている東京都PRロゴやニュージーランド、フランスの「&」と同様、一部が切れたデザインだ。

デザイナー以外にはなかなか理解できない特殊(?)なことかもしれないが、文字・書体(フォント)とはパソコンを買うと内蔵されているものばかりではなく、わざわざ「購入する」ものも多い。デザイナーは、デザインソフト以上に「フォント」を買う。

フォント(文字・書体)はパソコンやワープロソフトを買えば無料で付属してくる、と思いがちだが、商業利用するには、許諾やライセンス、利用料が必要なのである。

このフォントは様々なものが無数に存在し、雑誌や書籍はもとより、アニメやゲームで良く利用されているようなものから、テレビ番組に使われるものまで、様々に存在しており、1書体で数千円から万円単位であることも珍しくない意外と高額なものだったりする。もちろん、ライセンス料を支払わなかったり、無断でコピーしたフォントを利用すれば、それは他のソフトウェアと同様、違法行為となる。

このフォントをデザイナーはわざわざ購入し、大量にパソコンにインストールしている。よって、デザイナーたちが見ているフォントと、そうではない人(フォントをわざわざ買わないユーザー)が見ているフォントの一覧は、実は景色が大きく違っている。

つまり、一般的には「一般的ではない書体」も、デザイナーにとっては「わりと一般的な書体」である場合は決して珍しくないのである。そう考えれば、今回の「&」による模倣疑惑はいささか早計であると言える。

しかし、このような問題がすぐに湧き上がること自体、今回の「五輪エンブレム騒動」が日本のデザイン業界にもたらした影響の大きさを物語っている。何をしても「模倣」「盗用」と思われる疑惑の土壌が完全に出来上がってしまっているからだ。

五輪エンブレム騒動が、今回のような大きな炎上へと発展してしまった大きな要因は、(前)審査委員会の説明があまりに「デザイン業界の論理」に則ったものであったこと、そして、組織委員会を含めた運営側が「著作権などの法的な正当性」だけを論拠に批判を切り抜けようとした点である。

その意味では、舛添要一都知事による「『 TOKYO』も『&』も一般的なので、著作権法のリスクはない」という説明は、一歩間違えれば、前回の轍を踏んでしまう危険性を内包している。他にも「愛される説明」や「理解されやすい釈明」の方法はいくらでもあるだろうに、なぜ、ネット民の感情を逆なでするような発言をしてしまうのかは、いささか理解に苦しむ。

デザイン業界の「氷山の一角」の一角でしかない億単位の仕事をしている著名デザイナーや重鎮(と言われているデザイナー)以外で、舛添都知事に適切なアドバイスを耳うちしてくれる、デザイン業界の現実を知っている「ごく普通のデザイナー」は側にいないのだろうか?

 

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藤本貴之(ふじもと・たかゆき) 東洋大学総合情報学部・准教授(情報デザイン論・メディア構造論)/北陸先端科学技術大学院大学・教育連携客員准教授/藤本情報デザイン事務所・執行役員/JAGDA正会員/最先端のメディア研究・メディア技術の知見から、アカデミズムの枠を超え、企業や自治体などを対象としたメディア設計や情報発信戦略など、数々の実践的なプロジェクトを手がけている。主な著書に『情報デザインの想像力』『脳にアイデアを思いつかせる技術(講談社)』『映像メディアのプロになる!(河出書房新社)』など、多数。