<月9「ラヴソング」>なぜ臨床心理士・福山雅治は恋に落ちてはいけないのか


高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事/日本社会臨床学会ほか会員]

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月9である。福山雅治である。タイトルが「ラヴソング」である。

オーディションで選ばれた新人・藤原さくら演じるヒロイン・さくらは吃音症である。

福山演じる広平は臨床心理士である。

・・・と、ここまで分かればストーリーはほぼ想像がつく。福山の献身的なケアによって、さくらの吃音症は次第に改善していく。23歳年上の広平にさくらは惹かれ、やがて恋心を抱く。吃音は治り、2人は恋人同志になる。または吃音があったとしても広平はそのままのさくらが好きだと告白する。どっちになるのだろう。

この筆者の予想を全く裏切ってくれるとすれば、それはそれで嬉しい。ドラマの2回目を見たが、脚本はおそらく6、7話ぐらいまでできあがっているのだろう。

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気なるのは広平が臨床心理士であると言う点である。臨床心理士は職業規範としてクライエント(治療対象者)に恋愛感情を抱くことは厳しく禁じられている職業である。

多くクライエントは自分の担当の臨床心理士に恋ごころを抱くようになる。これを専門的には「逆転移」という。この「逆転移」が起きないように臨床心理士は注意深くケアを進めなければならない。

「逆転移」の状態が発生すると、臨床心理士側もクライエントを好きになってしまうことがある。これを専門用語では「転移」という。本当の治療はこの「転移」「逆転移」を乗り越えてこそ行えるようになるというのがこれまでの考え方である。

臨床心理士の仕事の基本は「傾聴」「共感的理解」「受容」である。一生懸命話は聞くが指示はしないというのも基本姿勢である。

広平はさくらの働く自動車整備工場に企業カウンセラーとして週に2日勤務しているという設定だ。大企業には企業カウンセラー、産業カウンセラーなどがいて、心のケアに当たるところも増えてきた。

が、ドラマで見る限りの規模の工場に企業カウンセラーが配置されているのはよほど福利厚生に関心が高いか、企業カウンセラーがいないと仕事が回らない程のブラック企業と言うことかも知れない。

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吃音症の治療には広平のような臨床心理士よりも、水野美紀演じる言語聴覚士が当たるのことが多い。田中哲司が耳鼻科医なのも、耳鼻科医が吃音症の治療に当たることもあるからであろう。

臨床心理士や言語聴覚士は医師ではないので診断も投薬も出来ない、基本的には医師の指示のもとにそれを助けるのが彼らの業務なのである。

こういう障害モノのドラマの場合、あざとさ、嘘くささが見えてしまうと失敗であると筆者は思う。UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)には、日本でも放送されていた米国ドラマ『ER緊急救命室』等に医療情報を提供する研究機関がある。

この研究機関のモットーは「エンターテインメントファースト、メッセージセカンド」であり、ドラマを面白くすることを第一義として正しい医療情報を提供している。さすがハリウッドのあるカリフォルニアである。

「ラヴソング」も正しい医療情報と共に面白いドラマにして欲しいと願う。

 

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