「サザエさん」から考える日本のテレビの問題点[茂木健一郎]


茂木健一郎[脳科学者]

***

「サザエさん」の視聴率がたまたま低かった、というニュースを見て、改めて、日本のテレビは「フロー」はあっても、「ストック」をつくり、活用するのが本当にへただ、という問題を思い出した。

「サザエさん」は、長寿番組で、今までたくさんのエピソードがあるはずだけど、それがストックされて、過去にさかのぼって見られる、ということを聞いたことがない(あるならば教えてください)。つまり、「サザエさん」はフローであって、ストックではない。

日本のテレビは、基本、フローである。つくっては流し、次に行く。一つのコンテンツを、丹念につくり、それをストックとして長年にわたって鑑賞し、育てていく、という発想が少ない。作り手の努力が報われるという意味では、もったいないと思う。

このところ、日本の「お笑い」の問題点をいろいろ書いているが、ここでもストックの欠如がもったいない。ドキュメンタリー調や、ドラマ調のコメディ番組、スケッチ番組を丹念につくって、長年コンテンツとして鑑賞し、古典に育てるという発想があまりにもなさすぎる。

【参考】<フジテレビ凋落の理由>テレビを見なくなった若者に向けた番組ばかりを作る愚

イギリスの「The Office」「Fawlty Towers」「Alan Partridge」「Father Ted」のようなコメディドラマは、基本、1シリーズ6本で、それが2シリーズ、プラスクリスマス・スペシャルと、10本ちょっとしか作られない。それを、丹念につくる。

たった10本ちょっとしか作らないコメディドラマを、何年も見ていく。Fawlty Towersなどは、全エピソードがみな諳んじたり引用し続けられるくらい見続けられている。つまり、ストックになっているのであり、単なるフローではない。

日本のテレビは、毎週同じ時間にレギュラーをやる、という発想が強すぎて、そもそも本数が多すぎる。だから、結果として「粗製濫造」になる。本数を絞って、ほんとうにクオリティの高いものをつくって、コンテンツとして長年活用していくという発想がない。

システムとして問題なのは、制作会社が一括して著作権を持ち、管理するという体制になっていないことだろう。そうなれば、制作会社もやる気が出るし、単なるフローではなく、ストックとしてのコンテンツをつくろうというモチベーションがわいてくる。

そう考えると、「ストック」としての活用があまりないにもかかわらず、毎週あれだけのクオリティのものを作り続けている「サザエさん」の制作は、一つの奇跡とも言える。本当は、制作会社が著作権を持ち、ストックとしても活用すれば、製作者もうるおい、さらなる制作への資本にもなるのだが。

(本記事は、著者のTwitterを元にした編集・転載記事です)

 

【あわせて読みたい】

The following two tabs change content below.

茂木健一郎

茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)脳科学者。株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所上級研究員。1962年10月20日、東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程終了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を出て現在に至る。「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究するとともに文芸評論、美術評論にも取り組んでいる。