<脚本家・冨川元文に聞く>日本の映画業界はどこへ行くのか?

映画・舞台・音楽

大河ドラマ「峠の群像」など数々のヒットドラマを生み、話題の映画「家族の日」の脚本を担当した冨川元文氏に現在の日本の映画製作事情を中心に話を聞いた。
この先、映画業界はどこへ行くのか?(聞き手:メディアゴン編集部)
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[メディアゴン編集部(以下、編集部)]冨川さんは、大河ドラマ・朝ドラと、もともとテレビドラマの脚本を書いていらしゃいましたが、映画に関わるようになったきっかけは?
[冨川元文氏(以下、富川)]もともとは映画好きで、それが高じて脚本を書くようになりました。学生時代、「映画友の会」という集まりがあり、その主催者である淀川長治さんとも付き合いがあり、一時は映画評論の道に進むことも考えました。
[編集部]最近の日本映画事情についてはどうお考えですか。
[冨川]大手映画会社配給映画、単館上映映画、ネットでの映画、製作費数億の映画から、100万足らずの製作費の映画まで。そうした状況のせいか、作品内容の多様性だけではなく、制作方法にも多様化が見られます。
[編集部]制作方法の多様化とは?
[冨川]今、フィルムでの映画作品は著名な数人の監督のものだけ、ほとんどはデジタルで撮られています。フィルム映画は焼き回しが必要になり、1本につき数十万ほどの費用が掛かります。
大手映画会社では200~300館の同時上映、それだけでかなりの費用になります、デジタルではその費用は不要、デジタル化で製作費はかなり安くなり、編集も便利になりました。
しかしこのことは十年も前のこと。今はさらに制作環境は変わってきています。低予算映画では、ナイトシーンは画面の中央だけが映り、隅の方は暗くなりました。
予算が少ないと、照明ライトの数が減り、そのスタッフも少なくなるからです。しかし、今はカメラの機能が数段に良くなり、その心配がなくなった。
またデジタル編集という技で、夜に撮影したシーンを昼間のシーンにも出来るようになり、またさらに、スマホで撮影し、スマホのアプリでその動画を編集もできます。
脚本・演技・演出力があれば、レベルの高い映画も可能です。おそらく、数年後には、こうした映像作品(映画)が氾濫するでしょう。
[編集部]今、話題になっている映画「君の名は」「シンゴジラ」については?
冨川 興行収益150億円と60億、二つとも大手映画会社のもの。「君の名は」はネットから火が付き、「シンゴジラ」はネットとさらに口コミで話題性を武器に成功した作品ですね。
もちろん内容もあっての成功ですが、興行収益を狙っての企画であり、プロデューサーの力のたまもの。この2作のうち一つはまだ観てません。映画に関わっている以上、観なくては・・・と思うのですが、なかなか映画館へ行く気になりません。
マスコミ、ネットに煽られて行動することに忸怩たる思い・・・団塊世代の癖でもあります。で、こういう映画が出て来るたびに思うのは、映画の価値イコール興業収益と勘違いされることです。
【参考】北朝鮮に拉致された映画監督が与えられた最高の製作環境?
単館上映の映画は、一館で上映され、その作品は地方都市の単館上映館に廻っていきます。そうしたシステムですから、億単位の収益などありえないわけです。さらに、前述のネットでの映像作品もしかり、収益が望めないのですから、当然多額の製作費はムリになります。しかし、この両方とも映画であることには変わり有りません。
[編集部]今、冨川さんがかかわっている映画企画、脚本を教えて下さい。
[冨川]ペンディング状態の脚本が3本。つまり製作費の工面をしている状態ということですが、1つはアニメ作品で世界的に著名なアニメ監督・ジミー村上氏と進めていたのですが、昨年彼が急逝して企画が中断。
ジミー村上氏の弟さんがハリウッドの美術監督ということもあってイーストウッド氏のところへ話をもっていったのですが・・・果たしてどうなるか・・・。
2つ目は京都の置屋(屋形)の話、二度ほど実現の運びとなったものの、その直前で、話が流れ。
3つ目は足掛け三年、ネット配信用に話を組み立てなおして再トライしているもの。
どれもスタートから3年余、消えてしまいそうな企画ですが、いまだにじたばたと動いている。映画業界の実態です。
そして、明日までプロットを書かねばならない映画企画が1つ。中国著名作家の書き下ろし作品を日本で映画化にというもの、難しい話でどうなるか・・・。
それと、来月、新宿(K’s cinema)で上映される単館上映の映画「家族の日」が一本あります。
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この映画「家族の日」は、伊原剛志・田中美里・岸部一徳ほか、名の知られた役者さんが何人も出ていますし、音楽も才能ある渡辺俊幸氏。
ですが製作費は3000万以下とか、元NHKディレクター大森青児監督との縁で友情出演となった結果です。低予算で作ったのも驚きですが、それよりも驚いたのは、映画の配給、広告宣伝も委託しなかったこと。
通常、委託すると製作費のほかに2~3000万が必要になるのですが、この内容を監督と2人のプロデューサーですべてこなしたということです。
コツコツと積み上げていくアナログ的な方法で作った映画ですが、ある意味原点に帰った新しい映画作り、この先変遷していくだろう日本映画の一つかもしれません。
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【冨川元文(とみかわ・もとふみ)】脚本家。1949年、愛知県生まれ。多摩美術大学彫刻科卒業。第10回向田邦子賞、日本アカデミー賞脚本賞優秀賞他、受賞。主な作品にテレビ脚本に大河ドラマ「峠の群像」、テレビ小説「心はいつもラムネ色」「ぴあの」他、多数。映画脚本に「うなぎ」カンヌ・グランプリ受賞、「赤い橋の下のぬるい水」「福耳」「赤い鯨と白い蛇」「出口のない海」他、多数。文化庁芸術家在外派遣特別研修員としてイスタンブールにてイスラム文化、トルコ映画・演劇を研修。
 
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