安倍外交の完全破綻と漂流するTPPのゆくえ


植草一秀[経済評論家]

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安倍政権が成長戦略の柱と位置付けたTPPは完全に漂流している。

冷静に観察すると、安倍政権の外交戦略はほぼ全面的に破綻していることが分かる。対米関係で安倍首相は踏み外してはならない一線を越えた。米国大統領選の最終局面で民主党のクリントン支持を鮮明に打ち出したことだ。

9月19日にNYでクリントン候補とだけ会談した。クリントン当選を予測してクリントン支持の旗幟を鮮明にしたのだ。

ところが、大統領選で勝利したのはトランプ氏だった。

安倍首相が11月にニューヨークのトランプ私邸詣でを挙行したことは、安倍首相の狼狽ぶりを鮮明に示している。

このトランプ私邸詣でから、三つの重要な事態が表面化した。

第一は、11月21日、トランプ時期大統領が、大統領就任初日にTPPからの離脱を宣言することを改めて明言したこと。この発言は安倍首相が「米国抜きのTPPは意味がない」と発言した直後に、ビデオメッセージの形態で発信された。

第二は、安倍首相が完全に漂流するTPP批准案および関連法案を臨時国会で強行採決したこと。

第三は、安倍政権が臨時国会で突然、カジノ法の拙速制定に突き進んだことだ。

これらはすべてが密接に絡み合っていると見られる。トランプ氏のTPP離脱再表明は、クリントン支持を鮮明にした安倍首相に対する意趣返しの側面が強い。

安倍首相は日本の行政トップとして、重大なリスク管理上の失敗を犯した。取る必要のないリスクを取って、大きな代償を支払わされる。

安倍首相が臨時国会でのTPP批准案および関連法案の強行制定に突き進んだのは、トランプ氏に対して「恭順の意を示す」「臣下の礼を取る」ためであったと見られる。トランプ氏が意欲を示す米日FTA・EPAにおいて、日本全面譲歩のスタンスを明示したかったのだと思われる。

安倍氏のトランプ私邸詣で後に急進展したのがカジノ法の強行制定である。これもトランプ氏に対する献上品である可能性が高い。

安倍政権が成長戦略の柱と位置付けたTPPは空中漂流し、安倍政権は大統領選での浅はかな結果決めつけの代償として、国益を米国に売り渡す失態を演じている。

対ロシア外交では、安倍首相が満を持して実現にこぎつけた12月15、16日の日ロ首脳会談で、何らの成果を挙げることができなかった。プーチン氏が2時間半遅れで訪日したのは、昨年の安倍首相遅刻の「返礼」であった可能性が高い。

日ロ共同経済行動に投入される資金が財政資金になるなら、日本国民は見返りなく負担を強いられるということになりかねない。

韓国では朴槿恵大統領が失脚し、従軍慰安婦問題が空中漂流する可能性が高まっている。年内に日本で開催する予定だった日中韓3ヵ国首脳会談は実施できないことになった。

ロシアは米国とも中国とも良好な関係を構築し、日本との距離を縮める必要性を失った。安倍首相は中国包囲網を構築するとしてきたが、現実には日本包囲網が形成されてしまっている。

TPPが漂流することになったことは日本国民にとっての僥倖だが、安倍政権のなりふり構わぬ売国政策スタンスを踏まえると油断することは許されない。

トランプ氏はTPPに否定的だが米日FTAには前向きであるとの情報もある。米日FTAで安倍政権がさらに売国姿勢を強めれば、その累は日本の主権者に降りかかってくる。

TPP批准を阻止するため展開してきた「TPPを批准させない!全国共同行動」は「TPPを発効させない!全国共同行動」として活動を継続する方針である。国民に重大な損失を与える安倍政権の売国政策に対する監視を強めなければならない。

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植草一秀(うえくさ・かずひで) 1960年、東京生まれ。経済評論家(日本経済論、金融論、経済政策論)。東京大学卒業後、野村総合研究所、大蔵省財政金融研究所研究官、京都大学経済研究所助教授、野村総合研究所主席エコノミスト、早稲田大学大学院公共経営研究科教授、名古屋商科大学客員教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ株式会社代表取締役社長。