<箱根駅伝>青山学院大学・原晋監督にみる「若い人をその気にさせる伝え方」

エンタメ・芸能

安達元一[放送作家]

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正月の恒例といえば「箱根駅伝」。関東の有名大学がこぞって参加している競技だけに、普段、スポーツに興味など持っていない人であっても、いつの間にか母校を応援してしまう・・・という不思議なスポーツであり番組です。

もちろん、視聴率という点からもその影響力の大きさがわかります。第93回となる2017年「箱根駅伝」の視聴率は、往路27.2%、復路28.4%と、「日本レコード大賞」14.5%のダブルスコア。40.2%の「紅白歌合戦」にも見劣りしない数字です。

さて、そんな箱根駅伝、今年の優勝は昨年・一昨年に引き続き、青山学院大学でした。3連覇したとは言え、青山学院大学の箱根駅伝と言われても、「ここ2、3年で突如躍進してきた」と感じている人は多いのではないでしょうか。

そこで今、注目を集めているのが、原晋監督の存在です。

原監督は、自身が就任した2004年当時は出場権すら手に入れられなかった弱小チームを、廃部の危機も乗り越え、わずか11年で優勝に導いた「名将」です。この原動力は何なのか? もちろんその中心が、選手の努力や、それを支える青山学院大学の組織的で科学的なサポートであったことは間違いありません。しかし、そのようなことは、箱根駅伝に出場している強豪校はどこでもやっているはずです。

筆者は、25年間の放送作家としての活動を通して、数々の人気番組とそれに携わるスタッフやタレントさんたちと関わってきました。特に、ゴールデンタイムの番組などは、箱根駅伝のように、番組はすべて強豪校です。多くのスタッフを集め、ありとあらゆるリサーチや仕掛けを駆使して参戦しています。

そんな中で、筆者が「勝つ番組」「負ける番組」には何の違いがるのか? ということを思い返せば、それは「言葉のチカラ」です。

番組の責任者や総合演出、プロデューサーたち(もちろん、筆者のような放送作家なども)が、若いスタッフや出演者たちに「どんな言葉を発するか」によって、番組は成功もするし、失敗もします。「言葉の力」が多くの役割を担い、それが番組の成否を決定づけると言っても過言ではありません。
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そのような経験から、(テレビ番組制作と比較するのはおこがましいですが)青山学院大学の箱根駅伝を見てみると、そこには、原監督の「言葉のチカラ」が巧みに作用されていることに気づかされました。

つまり、青山学院大学の躍進の原動力のひとつは「言葉のチカラ」があったのではないか、と感じています。

【参考】<熊本震災 便乗犯罪に要注意>放送作家・安達元一氏「震災の被災現場で聞いた気分の悪い話、嬉しい話」

今年の箱根駅伝では、3連覇を狙う青学大・復路の7区で田村和希選手が突然の体調不良に見舞われました。快調にトップを走っていたのが、16キロ過ぎから急激にベースダウン、苦しい表情で足もフラフラ、脱水症状の陥ったかのような状況でした。

そんな時、監督車から原監督は、こんな言葉をかけたそうです。

「みんな待ってるよ、スマイル、スマイル!」

この話を聞いて、筆者は原監督が発揮した「言葉のチカラ」に思わず感心してしまいました。こりゃ、名将になるよね、と。原監督がもし、テレビ番組の制作者であれば、確実にヒットメーカーになっていたと確信します。

原監督曰く、「最近の若者は、他人からどう見られているのかを非常に気にする」のだそうです。これはSNS全盛の時代で、他人からの評価などを日常的に気にする生活を送っているからでしょう。
そのような現実を考えれば、苦戦している若い選手に、

「頑張れ、気合いを入れろ、諦めるな、負けるな」

といった、通常の声援では何も響きません。もしかしたらマイナス効果かもしれません。そうではなく、「みんな待ってるよ」と、周囲が期待していることを伝えるのが、今の若者には効果的なのです。そして原監督流の「スマイル」が、そこにつくわけです。

その言葉に、田村選手は背中を押され、2位の早稲田大学に差を縮められながらもトップを守り、タスキをつないだのです。

このような「言葉のチカラ」にまつわる原監督のエピソーソには事欠きません。
例えば、原監督は、選手が遅刻したときなども、普通に遅刻を注意するのではなく、「他人からどう見られているのかを気にする若者」向けに、こう言うのだそうです。

「遅れるのは君にとって損だよ、他人から信用されなくなるよ」

これなどは、私たちが職場や、家庭などで、若者と接するときに使えそうな伝え方ですね。

「ワクワク大作戦(2015年)」「ハッピー大作戦(2016年)」「サンキュー大作戦(2017年)」・・・など、キャッチフレーズをつけ、「言葉のチカラ」をフル活用して指導していく青山学院大学・原晋監督。

原監督の「言葉のチカラ」は、スポーツ指導者の枠を超えて、私たちにも大きなヒントになるような気がします。

 

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