家庭教育に介入する「家庭教育支援法案」は思想及び良心の自由の侵害 – 植草一秀


植草一秀[経済評論家]

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少数の支配者にとって民主主義は敵である。

「1%対99%の社会構造」が指摘されているが、民主主義の下では、1%は99%に立ち行かない。99%が実権を握る。

したがって、99%が、99%のための政治を実現するには、「民主主義を活用すること」が何よりも重要になる。99%がひとつにまとまり、連帯すれば、99%のための政治を確立できる。

これが2017年の最重要の課題である。

1%の支配者の側から見ると、まったく異なる対応が生まれる。民主主義の下で、1%が引き続き社会を支配するには、相応の創意と工夫が必要になる。創意と工夫というのは皮肉を込めた綺麗な表現で、悪だくみと策謀が必要になる。

支配者が1%による支配を維持するために用いている五つの策謀がある。

それが、

教育、洗脳、弾圧、堕落、買収

なのだ。

<洗脳>はマスメディアによる情報操作。
<弾圧>は政治的敵対者に対する人物破壊工作。
<堕落>は3S(スポーツ・セックス・スクリーン)による人心誘導。
<買収>は御用学者・御用コメンテーターの養成

である。しかし、もっとも根幹に置かれるのは「教育」である。「三つ子の魂百まで」と言われるが、教育を通して、1%に都合の良い人間の創出が何よりも重視される。

伊藤真氏との共著『泥沼ニッポンの再生 国難に打ち克つ10の対話』(https://goo.gl/7CYc2X)のなかで、私は日本の教育あ、「覚える・従う」偏重で、「考える・主張する」が欠落していると指摘した。

尊厳ある個人を育成するのではなく、「国家にとって都合の良い人を育成すること」が目指されているのである。

1月20日に召集される通常国会では、

* 天皇譲位問題
* 共謀罪創設

が論議されるが、この国会に安倍政権は、

* 家庭教育支援法案

を提出する方針である。

家庭教育支援法案は、国家が家庭教育に介入するための法案である。戦時下に発令された「戦時家庭教育指導要綱」(母の戦陣訓、1942年5月)と重なるものである。

「家庭教育の重要性を唱え、家庭の教育力の低下を指摘し、国家が家庭教育を支えなければならないとするロジックは完全に共通している」(月刊FACTA)

のであり、安倍政権が日本を戦前の大日本帝国憲法下の日本に誘導しようとしていることがはっきりと読み取れる。

そもそも家庭教育は「親の権限(親権)」で行われるものであり、親の子どもに対する「教育権」に基づくものである。親以外の第三者が決定し、強制するものでない。

同時に重視されるべきは「子どもの権利」であり、親だから子どもに対して何でも強制、要求できるものでもない。「子どもの権利・基本的人権」は守られなければならない。

日本国憲法においては、基本的人権の尊重がすべての基本であり、家庭教育への国家の介入は、この大原則に反するものである。

安倍政権は2006年に教育基本法を定め、

第1条に教育の目的として、

(教育の目的)
第一条 教育は、人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。

と定め、第10条に、

(家庭教育)
第十条 父母その他の保護者は、子の教育について第一義的責任を有するものであって、生活のために必要な習慣を身に付けさせるとともに、自立心を育成し、心身の調和のとれた発達を図るよう努めるものとする。

2 国及び地方公共団体は、家庭教育の自主性を尊重しつつ、保護者に対する学習の機会及び情報の提供その他の家庭教育を支援するために必要な施策を講ずるよう努めなければならない。

と規定した。

国家が家庭教育に介入する仕掛けを盛り込ませていた。これを具体化するのが「家庭教育支援法案」であり、「国家のための国民」を養成する最重要の単位として「家」を位置付け、親に「国家のための国民」を養成することを強要するものである。

これらの考え方、措置が日本国憲法が保障する基本的人権を侵害することは明らかであり、憲法違反の法令を制定することは断じて許されない。

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植草一秀(うえくさ・かずひで) 1960年、東京生まれ。経済評論家(日本経済論、金融論、経済政策論)。東京大学卒業後、野村総合研究所、大蔵省財政金融研究所研究官、京都大学経済研究所助教授、野村総合研究所主席エコノミスト、早稲田大学大学院公共経営研究科教授、名古屋商科大学客員教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ株式会社代表取締役社長。