<通知表の構造がダメ?>間違いや欠点は学習のための重要な情報


茂木健一郎[脳科学者]

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<間違いは学習にとってのごちそうである>

学習における大事な要素の一つは、「誤差信号」である。正解と自分の出力の間の差をフィードバックする。そして、次の行為においては、その差を小さくするように修正する。これを繰り返していけば、パフォーマンスが向上する。

答案が返ってきたとき、100点満点だったら気持ちがいいだろうが、逆に言えば「誤差信号がゼロ」ということである。点数が悪いということは、それだけ多くの学習機会がそこにあるわけだから、むしろよろこばなければならない!

たとえば、10問中3問しか正解しないで、7問間違っていたとしたら、「しめた!」と思えばいい。7問分の誤差を修正する機会を与えられているからである。そこからは、一つひとつ、ごちそうをたべるように、正解と自分の出力の差を理解し、それを修正できるようにフィードバックしていけばいい。

世間では、往々にして「点数」そのものに重点が置かれているために、間違いが大切な学習機会だという認識がないようである。誤差は学習にとってのごちそうであるという見方を、もっと持ちたい。

学習において誤差信号は大切だから、それは日常的にフィードバックするようにしなければならない。テストの時だけが特別だと思うからいけないのである。ふだんから自分でテスト、採点し、フィードバックを繰り返す学習をしていれば、本番のテストなんて別に大したことがない。

もっとも、以上は正解があり、それを「教師」が教えてくれる「教師あり学習」のメカニズムであり、「教師なし学習」には別のノウハウがあるが、それはまたいずれ解説したい。

 

<成績のためでなく、学習のフィードバックのための信号としてテストを使うこと>

テストの自己採点などで、自分の欠点がわかったら、それを学習のためのフィードバックに使えばいい。誤差信号を減らす方向に調整すれば、自分のシステムを向上させることができる。それを繰り返しやることで、パフォーマンスを向上させることができる。

誤差信号の減少という教師あり学習は、まさに人工知能がやっていることで、彼らはそれを何千回何万回とくりかえして、機能を高度化している。もともとは人間の脳にインスパイアされたメカニズムなのに、人間の方がかえってそれをできていない。

【参考】自分を必要以上に高く評価する「間違ったプライド」

人間が誤差信号をうまく使えないのは、他人との比較や劣等感といった余計なことを考えるからである。ただ単に、自分のパフォーマンスを上げるために有益な情報だととらえればいいのに、「ダメだ、あいつに負けている」などと解釈し、結果として誤差信号を否定したり無視したりすることもある。

成績の悪い人ほど自分の能力を過大評価する傾向にあるという有名なダニング=クルーガー効果は、まさに誤差信号の虫の結果である。逆に、成績の良い人ほど自分の能力の評価において慎重であるということは、それだけ誤差信号を素直に受け入れる態度を持っていることを意味する。

自分に欠点があったり、足りないところがあるという認識を、劣等感やその裏返しの自信過剰に結びつけるのではなく、学習のための重要な情報としてとらえること。これは、特に初等教育において子どもたちに伝えるべき、とても大切なポイントであるが、それが十分になされていない。

成績や通知表の構造がダメなのである(これは日本だけでなく諸外国でも同じである)。成績で人を「格付け」するのではなく、学習のための情報をフィードバックするという思想でつくれば、成績や通知表の表現方法は変わってくるはずだ。

<理想の自分と現実の自分の間の誤差信号>

「誤差信号」は、通常、個々の課題において与えられる。例えば、英語の穴埋め問題や、計算問題などである。これらの「誤差」を小さくするように修正していくことが、学習において重要なプロセスであることはすでに指摘した通りである。

一方、さらに大きな視野、長い期間にわたる視点から見た「誤差信号」もある。それは、つまりは理想の自分と現在の自分の間の距離のようなものであって、この誤差信号は個々の課題に対するそれに比べると明確には定義されていないが、同じように重要である。

理想の自分のあり方は抽象的なものであるかもしれない。しかし、だからこそ、ありありと鮮明なイメージとして思い浮かべられることもある。自分が目指す自分のあり方(状況)と、現在の状況をイメージとして比較し、その間の距離を縮めるように日々努力すれば良いのである。

【参考】脳科学者が考える「To Do List」を使うべきではない理由

理想の自分のあり方は、一つの生活のスタイルとしてイメージされるかもしれない。あるいは、社会の中でのあり方としてイメージされるかもしれない。あるいは、一つの具体的な目標の達成としてイメージされるかもしれない。

いずれにせよ、自分がこうなりたい、こうありたいということをイメージして、それを現在の自分と比較し、何が違うのか、何が足りないのかを意識化して、それを少しでも縮めるように努力すれば、人は成長することができる。

この場合、誤差信号を縮めるための課題の数はきわめて大きなものになるかもしれないが、それで良い。そのようなかたちで、課題のスペクトラムを俯瞰することも、充実した人生を送る上で大切なことである。

(本記事は、著者のTwitterを元にした編集・転載記事です)

 

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茂木健一郎

茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)脳科学者。株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所上級研究員。1962年10月20日、東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程終了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を出て現在に至る。「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究するとともに文芸評論、美術評論にも取り組んでいる。