<リスクを背負ってでも、伝えるべき時がある>ユニセフ賞受賞映画『with…若き女性美術作家の生涯』

榛葉健[ テレビプロデューサー/ドキュメンタリー映画監督]

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小生が、日本で初めてテレビのビデオドキュメンタリー番組を映画化したのが、2001年でした。

『with…若き女性美術作家の生涯』という、テレビ界の国際賞を幾つも受賞した作品とはいえ、当時まだハイビジョンでなく、ビデオの画質は映画のフィルムに著しく劣っていた時代です。
ドキュメンタリーの分野では映画とテレビの交流は皆無で、前例のない挑戦に、映画界の大手からは当初殆ど無視され、テレビ界からは「ドキュメンタリーを映画にしても、採算が取れない」などと、したり顔で言われました。ですが小生にとって、そんな物言いはどうでも良かったのです。
「テレビ放送で終わり」に出来ない、取材対象者との間の、《強い動機》があったからです。
ストーリーを紹介します。
主人公は、1995年の阪神・淡路大震災で自宅が全壊し、瓦礫の下から助け出された神戸の女子大生、佐野由美さん(当時19歳)。彼女は地震3日目に、母親から「一番大切なものを取ってきていいか」と許しを得て、壊れた自宅から、スケッチブックとペンを掘り出しました。そして廃墟の中をたくましく生き人々の姿を連日記録し、絵日記が3年後に出版されて、ベストセラーになります。
その後、大学卒業と同時に佐野由美さんは単身ネパールに渡り、スラムの小学校にボランティア教師として赴任します。自分が被災した時、名前も分からない全国のボランティアに助けられたことで、「誰かに恩返ししたい」と考えたのです。
カースト社会の最低辺で生きる人々と生活を共にし、過酷な現実の中で、彼女は絵やイラストを描き続けます。美術を通して、社会のゆがみを静かに問い、
少しでも平等な社会が実現するよう願って、一人、青春を燃やします。そして1年間のボランティア活動を終え、日本帰国まであと数日…という時、佐野さんに、思わぬ事態が起きるのです…。
初の映画化から13年。テレビのタブーを超えて表現した本作は、今も日本中に広がり続け、多くの人に《いのち》の素晴らしさを体感して頂いています。会社や企業に経費を依拠すれば、絶対実現できなかった、映画化。今でも思うことですが、テレビ局の人たちに、マルチな表現世界に目を向けて欲しい、と願います。
自分で責任を取りさえすれば、テレビでは絶対出来ないことが、実現出来ますから。(榛葉健[ テレビプロデューサー/ドキュメンタリー映画監督]
 
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<受賞歴>日本賞 ユニセフ賞/アジアテレビ賞/ニューヨーク祭 優秀賞文部科学省 特別選定作品/優秀映画鑑賞会 推薦 ほか
 
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