<最大600億円の費用対効果>保育士不足の解消に「保育ロボット」の導入を


石川和男[NPO法人社会保障経済研究所・理事長]

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保育園では、0〜2歳児は必ず「お昼寝」をする。正しい生活習慣を身に付けさせるためだ。厚生労働省によると、2016年4月現在、保育園を利用している0歳児は13.7万人、1・2歳児は83.8万人。この合計98万人の0〜2歳児が、全国の保育園で毎日昼寝をしている。

園児の昼寝中、保育士は5〜10分ごとに呼吸確認をし、記録をとり、そして連絡帳の記載もする。園児の昼寝は午後1〜3時で、この時間帯には保育士も順番に休憩をとる。しかし、昼寝の途中で起きてしまう乳幼児は少なくない。

これらの0歳児には4.6万人の保育士、1・2歳児には14.0万人の保育士が付いている。この合計18.6万人の保育士が、毎日2時間、98万人の0〜2歳児の昼寝の呼吸確認をしている。

園児が昼寝の途中で起きたら、保育士は園児を抱っこしながら、昼寝に戻るよう促す。園児を抱っこしている間、その他の園児の呼吸確認も連絡帳記載もできない。そんな時、フリーの保育士や、隣の部屋の保育士が手助けしたり、休憩中の保育士が休憩を切り上げて手伝ったりする。

そうなると保育士にとっては、園児が昼寝をする時間帯で予定していた仕事が後ろにずれてしまい、残業となってのしかかる。これが、「保育士の働き方」を壊している大きな原因の一つ。

【参考】不安を煽る朝日新聞>保育施設での死亡事故率「0.0007%」そんなに高いか?(http://mediagong.jp/?p=17044)

待機児童問題を解消するには、保育園を増やすことだけではダメで、保育士を確保しかなければならない。しかし、保育士はぜんぜん足りていない。政府は、保育士不足を解消するため、保育士の給与を引き上げるなど待遇改善への努力にようやく本腰を入れ始めた。だが同時に、保育士の働き方そのものを改善することも考えていく必要がある。

保育士の働き方を改善するための妙案はないだろうか。もちろんその場合、保育の安全性は維持・向上させることが大前提となる。

「昼寝」のことを「午睡」とも言う。産婦人科で生まれたばかりの赤ちゃんが寝るベッドには、ベビーセンス(乳幼児用呼吸モニター)が装着されている。赤ちゃんの呼吸を確認する機械で、いわば「保育ロボット」だ。これを全ての園児に対して確実にあてがうことができるようになれば、保育士は1人の園児を抱っこしたとしても、午睡チェックを怠る心配はない。他の保育士の手助けも不要となる。連絡帳の記載も時間内に済むので、しっかりと休憩をとれる。

このベビーセンスは、殆どの保育現場では今はまだ利用されていない。これを普及させていくには、全ての0〜2歳児の呼吸確認を毎秒行い、その結果を装置の画面上で簡単にわかるようにしておかなくてはならない。こうした保育ロボットの導入は、単に保育士の待遇改善のためではいけない。保育安全の質を向上させるためのものであることが最も大事だ。

ロボットベンチャー企業「SCIENCE PANDA」(群馬県太田市)によると、この保育ロボットを保育園1ヶ所に設置する費用は約300万円。全国の保育園(約3.1万ヶ所)に導入する費用は、総額930億円程度となる。保育育士の時給を1000〜1500円とすると、昼寝の呼吸確認に起因する残業代は、1日当たり3.7〜5.6億円で、1年(300営業日)当たりでは1100〜1700億円にもなる。

このベビーセンスの導入により、差し引きで200〜600億円くらいの費用対効果が出る。機械と違って、人間はミスもするし、神経を擦り減らすこともある。ロボットは、正常稼働すればミスもしないし、神経を擦り減らすこともないので、午睡チェックの安全性は向上するはず。まさに、「お昼寝改革」だ。

4〜6人の園児たちが乗ったカートを、保育士が押しながら歩いている姿をよく見かける。あのカートがなかったら、保育士は両手で園児の手を握り、最多で2人の園児と散歩に出かけるのがせいぜい。カートを利用すればこそ、多くの園児と一緒に、急に道路に飛び出す危険もなく安全に散歩できる。

次の保育新政策は、保育の安全性を向上させる保育ロボットを普及させていくことである。

 

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石川和男

石川和男(いしかわ・かずお)NPO法人社会保障経済研究所・理事長。1965年、福岡県生まれ。東京大学工学部卒業。1989年、通商産業省(現経済産業省)入省。エネルギー政策、産業保安政策、産業金融政策、中小企業政策、消費者政策、物流・流通政策などに従事。2007年3月、経済産業省を退官。2008〜09年、内閣官房・国家公務員制度改革本部、東京財団上席研究員、政策研究大学院大学客員教授、政府の規制改革会議、行政刷新会議WGなどの委員を歴任。