一段と拍車がかかるNHKの偏向放送 -植草一秀


植草一秀[経済評論家]

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安倍政権は人事権を濫用してNHKを私物化している。

NHKの最高意思決定機関は経営委員会だが、経営委員会の委員の任命権は内閣総理大臣にある。放送法第31条は経営委員会の委員について次のように定めている。

(委員の任命)
第三一条 委員は、公共の福祉に関し公正な判断をすることができ、広い経験と知識を有する者のうちから、両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命する。

そして、実際のNHKの業務運営は、NHKの会長、副会長、および理事に委ねられるが、会長、副会長、理事については、放送法第52条が次のように定めている。

第五二条 会長は、経営委員会が任命する。
2 前項の任命に当たつては、経営委員会は、委員九人以上の多数による議決によらなければならない。
3 副会長及び理事は、経営委員会の同意を得て、会長が任命する。

つまり、内閣総理大臣がNHK経営委員会の人事権を握り、その経営委員会がNHK会長を選出する。そして、NHK会長は経営委員会の同意を得てNHK副会長と理事を任命するのだ。

これを見ると、内閣総理大臣はNHKを支配し得る人事権を有しているということになる。ただし、経営委員の任命を定めた第31条には、

「公共の福祉に関し公正な判断をすることができ、広い経験と知識を有する者のうちから、」

の記述があり、内閣総理大臣が、この記述に沿って適正に経営委員を任命するなら大きな問題は生じないが、内閣総理大臣が、この記述を無視して、偏向した人事を行えば、NHK全体が偏向してしまうのである。

また、NHKの財政運営については、第70条が次のように定めている。

(収支予算、事業計画及び資金計画)
第七〇条 協会は、毎事業年度の収支予算、事業計画及び資金計画を作成し、総務大臣に提出しなければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。
2 総務大臣が前項の収支予算、事業計画及び資金計画を受理したときは、これを検討して意見を付し、内閣を経て国会に提出し、その承認を受けなければならない。

NHKは予算を総務大臣に提出し、総務大臣が国会に提出して承認を受ける。国会において、与党が衆参両院の過半数を占有していれば、NHKは与党の承認さえ得れば、予算を承認してもらえる。

そして、NHKの収入の太宗を占めるのが放送受信料である。放送受信料を支えているのが放送受信契約である。これについては、第64条が次のように定めている。

(受信契約及び受信料)
第六四条 協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。

この条文は、家にテレビを設置したら、放送受信契約を結ぶことを義務付けるものである。しかし、NHKの番組編集は著しく偏向しており、NHKと受信契約を締結したくない主権者が多数存在する。NHKの偏向を是正せずに、受信契約を強制することは、基本的人権の侵害である。

受信契約拒絶の自由を求めて訴訟が提起されたが、政治権力の忖度機関に成り下がっている裁判所が、放送法64条の規定を合憲と判断した。

政治権力がNHKも裁判所も支配してしまっている。NHKは「みなさま」のことを一切考える必要がない。NHKは、ただひたすら「あべさま」のご機嫌だけを窺う機関に成り下がっている。

12月10日放送の「日曜討論」では、安倍政権の経済政策をテーマに討論番組が編成されたが、一段と偏向が強まっている。

この討論番組を評価する基準は、出演者の選定である。そもそも司会者が偏向を絵に描いた存在の島田敏男氏である。この時点で、放送内容が大きく歪む。この日は4名の出演者だったが、政府代表プラス太鼓持ち発言者は定石である。残りの2名の出演者に、対論を述べる代表的な論者が出演して、初めて「討論」の意味が生じる。

しかし、偏向NHKはこの2名の人選において、露骨な偏向を実行している。残りの2名も、政府施策賛同者、財政規律優先論者を揃えており、これでは、公平な議論にならない。

安倍政権の施策に問題があることはもちろんだが、財政規律を主張する論者だけを登場させるのは、財務省への配慮なのである。こんな偏向番組を制作するNHKとの受信契約強制を合憲とする裁判所は、もはや裁判所としての機能を失っている。

政治権力=行政権力がすべてを支配し、憲法も無視した政治を実行しているのが現実であり、この現状を打破するには、ただひとつ、この行政権力を打倒するしかない。

この点を明確にしておく必要がある。

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植草一秀(うえくさ・かずひで) 1960年、東京生まれ。経済評論家(日本経済論、金融論、経済政策論)。東京大学卒業後、野村総合研究所、大蔵省財政金融研究所研究官、京都大学経済研究所助教授、野村総合研究所主席エコノミスト、早稲田大学大学院公共経営研究科教授、名古屋商科大学客員教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ株式会社代表取締役社長。