名護市長選敗北踏まえて直ちに再出発する -植草一秀


植草一秀[経済評論家]

***

2月4日に実施された沖縄県名護市長選挙で現職の稲嶺進氏が落選し、自公維が推薦した新人の渡具知武豊氏が3458票差で当選した。接戦が予想されていたが、結果は大きな差をつけての渡具知氏当選となった。

渡具知氏は市議時代に辺野古米軍基地建設を容認していた。しかし、今回選挙では辺野古米軍基地建設問題を口にせず、公開討論会にも応じなかった。渡具知氏が勝利した一因は沖縄公明党が前回の自主投票から一転して渡具知氏を推薦したことにある。

沖縄の公明党は普天間基地の県内移設に反対の立場を表明しており、渡具知氏と公明党との間で交わされた政策協定書には「日米地位協定の改定及び海兵隊の県外・国外への移転を求める」ことが明記された。このことは、辺野古に米軍基地を建設することに反対であるとの立場を示すものである。

しかしながら、渡具知氏は国が交付する米軍再編交付金について、「受け取れるのであれば受け取る」とも発言していた。再編交付金は基地移設受け入れの見返りとして政府から交付されるものであり、再編交付金を受け取るというのは、米軍基地建設を容認することと同義となる。

つまり、表向きは「県内移設に反対」としながら、辺野古米軍基地建設を実質的に容認するスタンスを示していたということだ。投票と同時に行われた出口調査では投票した主権者の過半数が辺野古基地建設には反対の意思を示した。

渡具知氏は最重要の争点について「あいまい戦術」を採用して、公明党の支援をも受けて当選を果たしたと言える。安倍政権は今回の名護市長選に総力を結集し、なりふり構わぬ「公金買収選挙」とも呼べる卑劣な選挙戦を展開した。

菅義偉官房長官は「名護東道路」の全面開通の1年半前倒しなどの新たな振興策を提示するとともに、基地受け入れを表明した名護市の三集落に対して国の補助金を直接交付するという「直接交付金」の投入を2018年度予算でも確保したことを伝えた。

年明け後に名護市入りした自民党の二階俊博幹事長は土地改良事業予算でのバラマキをも示唆し、札束で頬を叩いて票を買い取るかのような行動を露骨に示したのである。

今回選挙で稲嶺進氏が落選した大きな背景に、辺野古での米軍基地建設進捗がある。また、翁長雄志沖縄県知事が埋め立て承認取消の裁判の過程で、「最高裁の判断に従う」との原質を与えたことも大きい。

「辺野古に基地を造らせない」ことを公約に掲げ、「あらゆる手法を駆使する」とも公約したからには、文字通り「あらゆる手法を駆使することが肝要」であり、沖縄県の側から「最高裁の判断に従う」などという原質を与える必要性は皆無だった。「最高裁の判断」といっても、最終的な判断ではなく、「埋め立て承認取消」に対する判断に過ぎないのである。

ところが、「最高裁の判断に従う」と述べたことで、この問題についての最高裁判断が、辺野古米軍基地建設問題を決着させるものであり、その判断に沖縄が従うとの大いなる誤解を発生させてきたのである。

今回当選した渡具知氏は「最高裁の判断を見守る」との表現を用いたが、この表現と、翁長氏の発言が重なるのは単なる偶然とは考えられない。翁長雄志氏が知事就任後、迅速に埋め立て承認取消、埋め立て承認撤回などの措置を実行していたなら、現時点で国は辺野古米軍基地建設の本体工事に着手できていないはずである。

「米軍基地建設阻止」の公約は守られ、「辺野古に基地を造らせない」可能性が十分に客観的に認められたと考えられる。

ところが、2015年夏に沖縄県が本体工事着工に必要な事前協議書を受領してしまった。これによって、辺野古米軍基地建設の本体工事への着手が可能になり、その後は激しい勢いで辺野古米軍基地建設が進められている。名護市の市民は、辺野古米軍基地建設を本当に止められるのなら、これを支援しようとしただろう。

しかし、現実に誰を市長に選出しても、基地建設を止めることができないのなら、経済的に恩恵の多い道を選んだ方が得策である、と考えたとしてもおかしくはない。この意味で、辺野古米軍基地建設を阻止するために、本当に「あらゆる手法を駆使して、最大限の基地建設阻止行動を取って来なかった」ことが、今回選挙結果を招いたと考えることもできる。

この意味で、本年末に任期満了を迎える翁長雄志氏の「辺野古に基地を造らせない」という公約に対する「実績」についての評価が、これから重要性を帯びることになる。今回市長選は極めて残念な結果に終わったが、この選挙戦を踏まえて、改めて安倍政治の早期退場を実現する必要性が確認されたと言える。

公金は国民の血税である。安倍政治はこの血税を「買収資金」として活用して投票を誘導するという「利益誘導選挙」、「利害誘導選挙」と表現しておかしくない手法を活用する言語道断の政権である。このような手法で政治が運営されたのでは、社会の根幹が破壊されてしまう。

「安倍政治を許さない!」と考える主権者が連帯し、大同団結して次の総選挙で安倍政治を打破し、清新な政権を樹立する確実な道筋を早期に定めなければならない。

植草一秀の公式ブログ『知られざる真実』はコチラ

 

【あわせて読みたい】

The following two tabs change content below.
植草一秀(うえくさ・かずひで) 1960年、東京生まれ。経済評論家(日本経済論、金融論、経済政策論)。東京大学卒業後、野村総合研究所、大蔵省財政金融研究所研究官、京都大学経済研究所助教授、野村総合研究所主席エコノミスト、早稲田大学大学院公共経営研究科教授、名古屋商科大学客員教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ株式会社代表取締役社長。