TBS『サンデーモーニング』の「風をよむ」が今ひとつ上滑りだった理由

テレビ

高橋秀樹[放送作家/発達障害研究者]

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『サンデーモーニング』は、唯一毎週視聴率ベスト20に入る、TBSにとって橋頭堡とも言える番組だ。スタッフも優秀な人が集まっていることが感じられて、リベラルの筆者にとっては、毎週かならず見る番組の一つになっている。情報局と報道局に所属替えをしつつ、司会の関口宏の強い要請もあって今は報道局の番組として放送されている。とくに、番組最後のコーナー「風をよむ」は、時宜にあったテーマでコメンテーターの考えが聞けるので、たいてい耳を傾けてみる。

さて、10月20日の「風をよむ」だが、橋谷キャスターが、次のようにリードを読んだ。なお(カッコ)の中は筆者が感じたままの補足である。

「私達が(テレビで放送される)スポーツに心惹かれるのはなぜでしょうか」

筆者は、なぜだか嫌あな予感がした。これに端的に答えれば答えは一つしかない。

「スポーツにはうそがない。ほかのテレビの番組はうそばかりだ」

視聴者はもう、テレビの嘘に飽き飽きしている。だから嘘のない(もしくは少ない)スポーツを見るのだ。だから、ラグビーワールドカップの日本×南アフリカは41.6%もの視聴率を取るのだ。テレビ屋は反省しなければならない。

とまあ。こんな話を展開したくて「風をよむ」をやるわけはないか、と思いながら引き続きVTRを見た。VTRはラグビーのカナダ代表が台風の被災地で泥さらいをしたという話を導入に、スポーツのフェアプレイについてまとめたものであった。いつもは、問題提起のために優れた構成でVTRを構築しているが、この日は取り上げるネタがスポーツばかりで、スポーツのフェアプレイのみについて論じるのか、だったら見てもしょうがないかと思いながら見続けた。

[参考]ウッチャンナンチャンMCが木村拓哉を超えた瞬間

今は都市伝説の一つとして否定されている話も登場した。1984年8月のロサンゼルスオリンピック柔道男子無差別決勝。山下泰裕と対戦したラシュワンが、山下の負傷していた右足を攻めなかったという話だ。ラシュワンは山下の右足を狙った。スポーツマンなら相手の弱点をつくのは当然だ。山下自身もこれについて「ラシュワンは決して、卑怯な手段を使っていないし、そもそも、ケガしたところを狙うのは立派な戦略である」と語っている。これはちょっと調べれば分かる話である。教訓は美談は疑えか。

結局この日のVTRの主張は「スポーツにはフェアプレイ精神があるから、皆心惹かれるのだ」というものだったように筆者は感じた。スポーツに関するフェアプレイなら色々言ううことはあるだろう、IOCと強欲資本主義の不適切な関係、スポーツマンに体力の消耗だけを強いる東京オリンピックの真夏開催、ナショナリズムの高揚だけを狙う代理戦争じみたスポーツetc.ところが、話はそういう方向には向かわなかった。VTR降りでの関口宏のコメンテータへのフリが、「世界中を見ててこの(フェアプレイ精神は)どうなんでしょう」だったからである。

『サンデーモーニング』は、コメンテーターに十分な時間をとって話させるところが魅力の一つだが、この日のコメントは何か皆あっちこっちに話が飛び、ちぐはぐだった。何を語らせた以下の方針ができていないからである。

ただ、中で一つ注目したのは、毎日新聞の元村有希子論説委員が言った、「公平と平等は違う」というコメントだった。「風をよむ」は、せめて、「公平(fair)と平等(equality)」くらいまで、踏み込んだテーマにして「風をよんで」ほしいと思いながら見終わった。

 

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