<税金が逃げていく>「ふるさと納税」に哭く、首都圏自治体のいま

政治経済

山口道宏[ジャーナリスト、星槎大学教授、日本ペンクラブ会員]

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新聞にこんな川柳があった。「ふるさとに寄付というネットショッピング」(奈良 しばあんこ)、「ふるさとは返礼品でおもうもの」(埼玉 つばき)は、いずれも秀逸だ。

次の数字をご覧いただきたい。「ふるさと納税」による首都圏の住民税流出額、である。(2018年度 市区町村分含む)

*東京都:645億円

*神奈川県:257億円

*千葉県:132億円

*埼玉県:131億円

つくづく「悪法も法なり」か、あの「ふるさと納税」だ。税金のキックバック制を国民にあおる「ふるさと納税」は、今春から「返礼品は寄付額の3割以下の地場産品」(総務省)を指定した。理由は自治体間の「公平性の原則」と「制度存続」とか。

しかしだ。もともと寄付行為に対しては「返礼品」を廃止すればいいだけのことで、2割、3割、5割だの話ではない。国は「税制のゆがみを正す」?というが、ここは「受益と負担という地方税の原則から見て好ましくない!!」(東京都小池知事)が正論だ。東京都は2019年6月から同制度を離脱している(23区は参加。ただし23区長会は前年に緊急声明を提出している。「ふるさと納税制度は自治体間に不要な対立を生む、いそぎ見直しを」2018.2)。

国は、税を巻き込んで地方への公費負担を免れようという魂胆に「ふるさと」という郷愁の4文字を使った。そして、結果的には国は嗤(わら)った。本来ならば、国がしなくてはいけない地方への積極的な活性化施策を国民同士の善意に<なすりつける>の成功に。

【参考】郵政民営化という名の究極売国政策を糺す -植草一秀

「公平性」も怪しい。即ち「ふるさと納税」が増えれば「区民税」が減るという構図がはっきりとした。地方交付税を受けている自治体ならば赤字分の75%は交付税で穴埋めがあるが、東京23区は不交付団体だから「税金がにげていく」「施策が萎縮する」「〇〇ができなくなった」。喫緊の行政サービスの低下から、ますます保育園も特養建設も進まない事態に。

たとえば東京・世田谷区(人口91万人)では「54億円の減収!!」と発表した(2019年度見通し・前年度は41億円の税減収に対して寄付額は1.2億円だった)。なんと54億円は保育園ならば18園分に、また区のゴミ収集やペットボトルなど資源回収の年度費用に相当、道路の維持管理でも年間40億円がかかるという。そこで、「返礼品はありませんけど」と、その世田谷区が勝負にでた。「ふるさと納税は、我らが世田谷へ」(「ふるセタ」)は、「寄付の使い道が選べる」(例 子育て支援、みどりの保全、高齢者障害者支援など)「グッズで応援」(例「ふるセタ」の名入りTシャツ、同ステッカー)「税金控除の対象に」(寄付金の2000円を超える部分は税金の控除対象、区にふるさと納税も同様)というものだ。

さて、この9月、国が発表した地方医療の「病院統廃合」と「病床削減」に全国知事会がカンカンだ。ここが無駄だ、と対象の医療機関の実名を挙げ、医療費抑制には「ベッド数削減」という。地方自治体は「なにが地方創生だ」「住民の生命に係わる」「地方はいよいよ壊滅する」「ますます人口流出が」と怒りを隠せない。

こちらでは「ふるさと」が哭いている。「ふるさと納税」と「ベッド削減」が同じ政権の国策だから、ほとほと呆れる。

そもそも「こんな地方に誰がしたか」であった。

 

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