テレ東・佐久間宣行プロデューサーが手掛ける「青春高校3年C組」MV

エンタメ・芸能

宮室信洋(メディア評論家)

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2020年1月22日にメジャーデビューする番組発の女性アイドルグループ「青春高校3年C組」のMVが2019年12月20日金曜日に公開された。「青春高校3年C組」は秋元康とテレビ東京の有名プロデューサー・佐久間宣行によるバラエティ番組である。

当初は生放送で平日に毎日、曜日がわりの芸人MCとNGT48の中井りかのサブMCで放送されていた(現在は生放送をやめ収録)。かつてのフジテレビ「夕やけニャンニャン」を彷彿とさせるように、一般の学生を募集し、番組をつくる企画であった。合格した学生らは、ツインプラネットに所属し、生放送バラエティでどんどん洗練されていった結果、それぞれがアイドル部や軽音部などにグループ分けされ、ライブを重ね、ユニバーサルミュージックよりメジャーデビューすることとなった。

佐久間プロデューサーは、現在テレビ東京のプロデューサーでありながら、異例なことにフジテレビ系列のラジオ局ニッポン放送で「佐久間宣行のオールナイトニッポン0」という冠番組を持っている。これも番組サブMCの「中井りかのオールナイトニッポン(AKB48のオールナイトニッポン時間帯での特別番組)」に佐久間が呼ばれて出演したのをきっかけとするものである。佐久間は自身のオールナイトニッポン0で青春高校MVを撮ることとなったいきさつを説明している。佐久間は映画にも詳しく、有名映画監督らにMV監督を依頼し、興味を持ってもらい、夢見心地でいたところ、残念ながら1人もスケジュールが合わなかったという。

そんな中、12月21日に納品しなくてはならず、MV撮影可能日もすでに15日と16日の2日間しかなく、番組演出の三宅優樹もゴールデン特番前日で空いておらず、ちょうど佐久間プロデューサーは両日空いていたという(実際は両日中にも収録があり、抜けている)。佐久間がやるからにはお笑い要素があるものだろうということで、有名トレンディドラマのパロディをメンバーが演じていくものを予定していたが、楽曲を改めて聴いてみたところ、ずっと頑張って来た生徒達のデビュー曲がお笑いネタでいいのかと思い、それぞれのメンバーの告白10秒前から撮るという設定の正統派MVとなった。

12月20日のMV公開生放送では、金曜日担当のバナナマン日村勇紀と東京03の飯塚悟史がMCを務めた。番組ではMV撮影の様子がまず放送された。先程の詳しい説明までは放送内では明かされていないので、先程のいきさつを踏まえて観ると、臨場感がかなり変わってくるだろう(LINEライブで一定期間、放送終了後の放課後トークも含めた完全版を視聴できる)。

青春高校アイドル部の前作「青春のスピード」MVを製作した松本壮史監督の協力があるとはいえ、佐久間が映画に精通しているからか、メジャーデビュー曲「君のことをまだ何にも知らない」のMVの出来は、お笑い番組プロデューサーが手掛けたものと思えない程優れたものとなっていた。曰く、ずっと生徒達を見てきた佐久間プロデューサーだからこそ撮れるMVということで、まさしくそうなのだろう。青春高校3年C組メジャーデビュー曲「君のことをまだ何も知らない」は、乃木坂46の楽曲で有名な杉山勝彦作曲で作詞はもちろん秋元康である。AKB48以来、アイドル楽曲はMVと合わせて表現するものとなっている。

本MVは、楽曲をMVの物語で肉付け、振り付けの良さを魅せ、13人、一人ひとりを欠かさずフィーチャーし、全盛期AKB48のような疾走感と、青春の響きのあるイントロや切なさの残るメロディ、NGT48「世界の人へ」のような秋冬感あるコーラスを印象的なものとする、これぞAKB48ファンが永らく待ち続けていたというべき完成度の高い王道MVとなった。

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この放送も非常に優れたものだった。日村はMV視聴後それぞれのメンバーと共演した男子生徒を労い、東京03飯塚も、メンバーらの告白直前シーンを先に見せておいて、最後の大サビ前で全員の告白シーン(センターの頓知気さきなが命名した「好きですラッシュ」)を畳み掛けていく構成にしっかり触れながら、感動していた。2人ともMVを一見するだけでしっかりとそのMVの魅力を放送内で解説し切っていたと言える。

日村はテレビ東京「乃木坂工事中」で国民的アイドルである乃木坂46と共演していることはアイドル界では有名であるし、飯塚もテレビ朝日「ももクロchan」ですっかりMCポジションに落ち着いたのは知られていることだろう。それぞれが国民的と言えそうなアイドル達の面倒を見てきている。特に日村は、バナナマンで乃木坂46を取り仕切っているとはいえ、ピンでここまで学生バラエティをうまく対応できるとは驚きであった。このような番組は、単なるMCやお笑いの才能という以上に、生徒といかによい距離感で愛情を持って接することができるかが視聴者へ与える楽しさにつながってくる。

MCや佐久間プロデューサーをはじめとするスタッフの大人達が、親心とでもいうべき大人の生徒への一般的な愛とともに優しく時には厳しく(本放送内VTRでも生徒の1人川谷花音が胸を強調するパジャマを持参した際にはMV監督として佐久間はしっかりと愛情を持ってこれを否定するシーンもあった)作品がつくられる過程は、昨今、大人が就活中の若い女性をホテルに連れ込む事件などを見ても、あるべき模範である。

放送でも一人一人に感想を振り、バラエティ性の強い生徒である女鹿耶子や胸を盛る準備をしていた川谷花音に終盤振れば2人とも笑いを巻き起こし、生徒の仲の良さを示すなど、奇跡的なまでの掛け合い、ハプニング等、生放送ならではの面白さで締めていくあたりが、これまたよくできている。フジテレビ「笑っていいとも」が終わって以来生放送ならではの面白さを演出できていたのは青春高校くらいだろう。カナダ人の父も日本でタレント活動をしているハーフ(ダブル)の生徒であるボールドウィン零や3期生の兼行凜が触れたように、13人全員の物語をMVに入れ込んだあたりに、番組プロデューサーである佐久間ならではのMVに仕上がった。

一人とて蔑ろにしないというのはファンが望む理想ではあるが、単に一人一人平等に扱ったところで、散漫な印象のグループになるようではただの悪平等でしかない。毎日生放送をしながらつくり上げてきたグループだからこそ、個性的なグループが成立し、佐久間プロデューサーが監督を務めたからこそ完成したMVなのであった。計画が頓挫した結果、最もよい結果となったというのは青春高校の仕掛け人である秋元康がいかにも理想とするような奇跡的調和であった。

佐久間プロデューサーは、テレビ東京「ゴッドタン」というバラエティ番組で有名になった。長年続くその番組は、その間に、MCのバナナマンとおぎやはぎと劇団ひとりが、特には前2組が、フジテレビ「とんねるずのみなさんのおかげでした」で準レギュラー化することで、大きく育った。その素地をつくり上げたのはまさしく「ゴッドタン」であった。お笑いバラエティプロデューサーというと最近では、テレビ朝日の加地倫三プロデューサーとTBSの藤井健太郎プロデューサーがあたかも2大プロデューサーかのように有名である。

この2人が有名なのは、視聴者目線によるお笑いファン的な偶然的なバイアスに過ぎないのかもしれないが、まさしく、佐久間が今回のMV監督選考VTRで冗談めいて言ったように、佐久間プロデューサーをそこに加えてこそ3大プロデューサーとして(むしろもっと他にもさまざまな有能プロデューサーがいるはずで、3という数字が本来疑わしいが)、相応しいだろう。佐久間プロデューサーは、最近、この青春高校を皮切りに、「オールナイトニッポン0」を持ち、年明けのNHK「新春テレビ放談」も連続して出演し、再び注目度が高まっていると言えるだろう。

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私は、タレント重視というよりは企画重視の加地、伊藤両プロデューサーよりも、タレントを中心に据え、タレントを活かし、面白い番組をつくろうとする佐久間プロデューサーの方に好感を持つ。インターネットの登場により、芸能人の相対化が進む昨今において、タレント中心か、企画中心か、どちらがよいのかは難しい問題ではあるが、テレビにはしっかりしたスターもいて欲しいと考えると、佐久間プロデューサーのあり方を私は支持してしまう(アドルフ・ヒトラーよりは北野武やタモリなどのカリスマがいてくれる社会の方がよいという解釈も可能かもしれない)。いずれにしろ佐久間プロデューサーの番組づくりの特徴にそのタレント愛が挙げられよう。

本MV作品はよく練られた構成となっている。既述の通り、「好きですラッシュ」の溜めとして、告白シーン直前までの様子がMV全体のメインとなっている。その展開もよく練られており、トリのセンターの頓知気さきなに至るまでに、兼行凜の先生へのフリップを使った告白、川谷花音のLINEを使った告白、そして最後に前川歌音と黒木美佑の百合告白へとだんだんと凝った趣向へと至る展開もある。

東京03の飯塚も真っ先に触れたように、川谷のLINEでの「好きです」を書いたものの削除する葛藤と、好きですラッシュの中に唯一口ではなくワンタップで送信という告白手法が入っているのも今時らしく、また「好き(絵文字)」と送ってしまったという口頭よりも実は投げつけるような思い切りのある告白となっているのも切なく、面白い(LINEでの告白は、いつ既読になるのかなど、今時ならではの簡易な告白と切り捨てられない情緒が今やあるとMVからも伝わる)。生放送で初視聴だったメンバー達の反響も、この川谷のLINE告白が最も大きなものであったといえるだろう。

最後の前川と黒木の百合告白は、サビを挟んで後の間奏で登場するというのも特別感が増している。前川は最近は表情で訴えかける演技をよく魅せており、ここでも表情で訴えかける切なさの表現がよく活かされている。黒木は「告白するよりされる方がかわいい」という佐久間のアイディアより、百合設定となった。佐久間はこのMVを「全員可愛く撮れた」と自負しており、細かなシチュエーションがそれぞれのメンバーに合ったものとなっている。放送では、告白の成功失敗も想定して、最後のシーンで、明示的ではないものの連続で見せていると明かした。このような裏設定すらある本MVは、決して既述のイメージにある突貫工事ではなく、むしろ、難航するよりすぐに思い付いたものの方が出来が良いという創作のパターンだろう。

青春高校3年C組メジャーデビューシングル「君のことをまだ何にも知らない」は、振り付けもステップを中心とした躍動感あるもので、途中には胸を締め付けるような振りも入っており、非常に印象的なものとなっている。杉山勝彦による曲も、青春高校アイドル部の前作「青春のスピード」に比べると全体的に抑えめな曲調になっているものの、全体的に切なさを感じさせる曲調であり、それでいて全盛期AKBを思わせるような軽快感あるイントロと印象的なメロディで構成される。丁寧なつくりの楽曲であり、その分何度も聴くことで良さがどんどんと噛み締められるスルメ系に属する奥深い楽曲だ。その抑えめな表現を本MVによって、十二分に表現し、また何度も聴くことを促せるMVとして完璧といえる内容になっている。映像も、佐久間監督の映画通のノウハウか、洗練されており、全体的に落ち着いたトーンで、衣装も坂道グループを思わせるような映像に合ったシックで清楚なものとなっており、秋冬のモードで全体が統一されている。

楽曲含めて、AKB48と坂道グループの融合を目指していると言って過言でないのかもしれない。佐久間プロデューサー自らが撮ったMVによって、青春高校はさらなる絆を、MCら、視聴者ともに一体のものとしたことだろう。佐久間プロデューサーのMVを中心とする、よくできた楽曲と振り付けの見事な組み合わせは、本デビュー曲をいきなり大ヒットに導きうるものである。とはいえ、夕方の番組からのアイドルグループで、48や46のネームが付いているわけではないグループであるのでいきなり世間に届くかは疑問である。またMVで完成される作品ならば楽曲だけでは弱さがあるかもしれないとも言えるが、デビュー曲でもありMVの訴求力は高いだろう。当面のライバルは同じ番組発秋元康プロデュースのラストアイドルとなるだろうか。

しかし、今までにないメンバーの充実と企画への力の入り方からすれば、ラストアイドルを超え、欅坂46のようにデビュー曲から跳ねる展望も期待できる。非48・46グループからの堅実な成功例といえば、秋元康ではないが関連する指原莉乃プロデュースの=LOVEが挙げられる。青春高校という新たなエンターテインメントの形に期待したい。

 

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