<奴隷契約?>芸能人の独立・移籍の制限問題に公正取引委員会乗り出す

社会・メディア

高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]

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2月15日、NHKが注目すべきニュースを報じている。ひとつは「芸能人の独立・移籍の制限問題 契約書ひな型見直しなど検討」との見出しを取ったニュースで、内容は以下のようなものである。

「芸能事務所が所属する芸能人の独立や移籍を契約で制限するケースが相次いでいるとして、公正取引委員会の有識者会議が検討を進める中、国内最大の業界団体が、多くの事務所で使われている契約書のひな型の見直しや移籍金制度の導入を検討していることがわかりました。公正取引委員会の有識者会議は、芸能事務所が所属する芸能人との間で独立や移籍を制限する契約を結んでいるケースが相次いでいるとして、独占禁止法に抵触する不公正な実態がないか検討を進めています。こうした中、多くの事務所で使われている『統一契約書』を作る国内最大の業界団体『日本音楽事業者協会』が法律の専門家などによる研究会を立ち上げ、契約書のひな型の見直しを始めたことがわかりました。」(以上、NHKニュースより引用)

問題は、これまで使用された「ひな形」なるものがどういうものであったかと言うことになるのだろう。参考までに、筆者が実際に視認した一例をあげれば、プロダクション側が認めない限り、芸能人は移籍できないという条項が明記された、いわゆる奴隷契約であった。

芸能人は新人時代、無名時代にどうしても有名になりしたい一念から、契約書の中身など確認せずにサインをしてしまうことは少なくない。しかし、それを後になってよく見ると、自分の意志だけでは辞められないと書いてある契約書であったりするわけだ。

【参考】能年玲奈(のん)が正常に活動できない芸能界の病

原則として双方合意すれば法律に反していない限りどんな契約でも結ぶことが出来るが、公正取引委員会の有識者会議はこうした形の契約は法に抵触するという判断なのであろう。一方、プロダクション側の言い分は「芸能人の売り出しには多額の費用がかかっており、稼げるようになったら辞められるのでは経営がなり立たない」と言うことである。

双方の言い分はそれぞれに理があるように思えるが、これは契約を細部までをつめない「どんぶり契約」だから起こることなのである。最初は給料制にするのか、どうなれば歩合制か、稼ぎがいくらを超えたら手数料はいくらにするのか、送り迎えの運転手はいつから付けてくれるのか、衣装代はどっちが払うのか、ホテル宿泊の時にはどのグレードの部屋が使えるのか、休みは取れるのか・・・などなど。本来はアメリカ並みに細部までつめた契約書が必要になるはずである。

その点から、日本音楽事業者協会からどのような契約書の「新ひな形」が提示されるのか? これは前近代的な構造を持つ芸能界の慣習が見直されるかどうかの試金石といえよう。是非とも「新ひな形」は公開して欲しいものである。

もともと、芸能界の興行やアメリカのショービジネスが、かつて、暴力団の資金源として行われてきたことは否定できない事実である。そのくびきから逃れるためにも契約書の正常化は是非必要であると思う。

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