<若手俳優レースの上位に顔を出す「第三の女」>爆笑問題・太田光が「バケモノみたいな女優」と激賞した松岡茉優


水戸重之[弁護士/吉本興業(株)監査役/湘南ベルマーレ取締役]

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あなたはNHK朝の連続ドラマ小説「あまちゃん」で、天野アキこと能年玲奈がいたアイドルグループ「GMT47」のリーダーを覚えているだろうか? ふつうは覚えていない。

ユイちゃんこと橋本愛や、若き日の春子さんこと有村架純を覚えていても、「海はないけど夢はある、埼玉在住、GMTの元気印、入間しおり19歳です!」の、松岡茉優を覚えている人はいない。

いや、「いない」と言い切るのは言い過ぎか。松岡茉優は、第36回日本アカデミー賞で最優秀作品賞、最優秀監督賞ほかを総なめにした映画『桐島、部活やめるってよ』(2012年公開。原作・朝井リョウ)で、スクールカースト(学内の友人グループを階級制に例えて、こういう言い方があるそうだ)の中で最上位グループにしがみついている、はっきり言ってゲスな女子高生の役どころを見事に演じて一躍注目を集めた。撮影時17歳。

「桐島、部活やめるってよ」は、バレー部のキャプテンで学内一のヒーローだった桐島(映画では最後まで登場しない)が誰にも告げずに姿を消したことで、憤ったり、おろおろしたり喪失感に打ちのめされたりする恋人や親友やバレー部員たちの世界と、その事件にはまったく無関心な映画部の男子やブラスバンド部の女子の世界という、2つのパラレルワールドの交錯を描いた映画である。

松岡茉優演じる沙奈は、桐島の彼女で学内一の美女の梨紗(山本美月)と親友でいることや、長身・男前・スポーツ万能の宏樹(東出昌大)の彼女でいること(のみ)にステイタスを感じている。

クラスメイトの亜矢(大後寿々花)が宏樹に密かに想いを寄せていることに気付くと、校舎の裏に宏樹を連れ出し、亜矢に見られていることを意識しつつ、熱いキスを交わす。宏樹は、といえば、そんな沙奈となりゆきでつきあい、そのあたりがこの映画のキモだったりする。松岡茉優は、トップグループにいるのだけど「三番手」といったポジションに「ちょうどよい」ルックスと可愛さ、なのだ。

映画のクライマックスで、沙奈は、バレー部の副キャプテン(鈴木伸之)と映画部部長(神木隆之介)の真剣な言い争いを見て、横からニヤニヤしながら「やっちゃえ、やっちゃえ」と小声でけしかける、といったゲスぶりを発揮する。それを聞いて、同じグループのはずのかすみ(橋本愛)は思わずビンタをしてしまう。

一瞬あっけにとられる沙奈、そのあとに、「はぁ~?」という反応。そのときの観客のカタルシスといったら。かくゆう私も、つい感情移入してしまった(少し恥ずかしい)。

東出昌大と橋本愛は、この映画で、日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞したが、この映画の最高の演者が松岡茉優であると気づくのに、そう時間はかからなかった。

「爆笑問題」の太田光は、ラジオ番組の中で、映画『桐島、部活やめるってよ』を観た後の感想として、

「ひとり、バケモノみたいな女優が出てましたよ。やけに上手いの。上手すぎて浮いちゃってるの。ありゃ、びっくりした」

と、絶賛した。そのとき太田はまだ松岡の名前を知らなかった。

本人は、といえば、インタビュアーから沙奈役について「女性からみてかなり嫌なヤツでした。」と言われて、「ありがとうございます!!」 と答え、「沙奈はとことん、いいところがひとつもない子にしようと思った」と答えている。

そんな松岡茉優が、最近、『うつけもん』というフジテレビの深夜のお笑い番組の司会を、芸人・おぎやはぎの二人とともに務めている。豆まきファッションのような赤い裃(かみしも)を着て、売れない芸人の「うつけ芸」(くだらなすぎて笑ってしまう芸のこと)を観て、司会がツッコミを入れる、という番組だ。

TBSの「あらびき団」に出てくる芸をさらにくだらなくしたような芸のオンパレードである。

松岡は、うつけ芸をみて、くりくりとした可愛い目を見開いて、顔の表情でリアクションをする。ときには、以前出演した芸人の髪型がどう変遷したかを解説してみせ、おぎやはぎを呆れさせた。司会のおぎやはぎからは当初「女優の松岡さん」と言われていたが、しだいに「マツオカ!」と呼び捨てにされるようになり、芸人が落とした入れ歯まで拾わされる事態になっている。

松岡は、NHK『めざせ!2020年のオリンピアン~東京五輪の原石たち』の司会を、原田泰造(ネプチューン)とともに務めている。青少年アスリートが対象の、さわやか系の番組であり、司会の二人も当然ながらさわやかに進行している。2020年の本番まであと6年間。NHKタレントとしての松岡茉優の地位は、この番組で確立するのかもしれない。

デビューのきっかけは、小学2年のときに、3歳だった妹(松岡日菜)がスカウトされ、事務所の面接に母親と一緒について行ったときに、「お姉ちゃんもやる?」と言われて、「ついでに事務所に入れてもらいました。」というもの。「だから、妹に頭が上がりません(笑)」とも。この「女優になってすいません」的な立ち位置がすごく良いのだ。

すでに芸歴11年の若手女優は、ヒロイン役の主演女優でも、そのライバルでもない、「第三の女」として、ヒタヒタと若手俳優レースの上位に顔を出し始めた。そのマルチな才能をもって、映画界、テレビ界の中心選手になる日はそう遠くないだろう。

さて、松岡茉優は現在、フジテレビ『GTO』で、優等生ながら妊娠してしまう高校生を演じている。普通だったら「難しい役どころを好演」と言われそうな役をそつなくこなしているのだが、学園ドラマにありがちなそんなステレオタイプの役は、松岡茉優にとっては、言葉の正しい意味で「役不足」だと思うのである。

 

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水戸重之

水戸重之(みと・しげゆき)弁護士として、映画、音楽、放送、芸能界、スポーツ関連の仕事を25年にわたって続けている。吉本興業(株)監査役、湘南ベルマーレ取締役。早稲田、慶応、筑波の各大学で教壇に立つ。日本人メジャーリーガーの日本側代理人を務める(石井一久、高津臣吾、齋籐隆、福留康介、黒田博樹、川上憲伸、青木宣親、田澤純一他)