出来レースの「矢口真里の復帰」番組を「独占」と誇らしげに放送したことに疑義


榛葉健[ テレビプロデューサー/ドキュメンタリー映画監督]

***

自宅で不倫を起こして謹慎していたタレント・矢口真里さんが芸能活動を再開するとする、“独占”と称するインタビュー。 10月23日に読売テレビの日本テレビ系列のワイドショー「ミヤネ屋」で放送された内容だ。

率直な印象は、「公共の電波を長時間使って何をしているのか?」という疑問だ。  あまりにバカバカしいのでこの日の新聞のテレビ欄の見出しをあえて書いておきたい。

  • ミヤネ屋 矢口SP
  • 宮根が全部聞いちゃいます!!
  • 不倫現場は?
  • 前夫は?籠城?激太り?
  • 貯金は?引退?再婚?
  • また来てくれるかな?

(新聞テレビ欄より)

これで全部だ。この日は、死者68人、負傷者4795人が出た新潟の中越地震からちょうど10年の節目の日。或いは、女性閣僚2人がW辞任し、政治と倫理の問題が噴出している時期でもある。しかしそうした重要な話題は何一つ見出しにない。

で、件の番組では司会者をはじめ出演者が矢口を庇(かば)い続ける進行を見せた。不倫→謹慎の経過について「いい経験をされましたね」と繰り返すトーンは、妻の不貞で離婚を余儀なくされた元夫の心情を察すれば、首を傾げざるを得ない。

もし「いい経験をされましたね」と慰めるのであれば、それは元夫に対して使われるべき言葉だろう。

芸能界に復帰したい、と本人が本気で思うなら、ごちゃごちゃ言い訳せず、他人には真似できない唯一無二の「芸」そのもので返すべき。私生活の切り売りをして電波に乗るのではダメだ。

理由ははっきりしている。当時の「私生活」を長時間話題にすること自体が、一番大切にしなければいけなかった人を再び傷つける、セカンド・ハラスメントに直結するからだ。

「矢口真里」というタレントに対して小生は元々悪感情は一切ない。むしろ騒動前は、「ワイプ芸」と称されるスタジオでの軽妙な会話術に「頭の回転のいい人」という印象もあったほどだ。

だが今回の番組はひどい。本人は神妙な言葉を繰り返していたが、それでも響くものがないのは、「ワイドショーのインタビューに一度出ておけば禊(みそぎ)になって、テレビに復帰できるだろう」とのプロダクションの思惑ばかりが透けて見えるからだ。

手厳しい質問に応えなくてはいけない会見や、ぶら下がり取材からは逃げ回っていたのに、視聴率が欲しい番組に「単独」を条件に出演を打診して受け入れてもらう狡猾さ。ここにあるのは。誠に珍妙な「相思相愛」の関係である。

しかも恥ずかしいのは、単なる“出来レース”なのに画面上部の字幕で誇らしげに“独占”と表示した番組の姿勢だ。これには、あきれるほかない。  “独占”などと書くのは、権力の腐敗など、本物のスクープを自力でつかみ取った時にするものだ。

まったく無価値な内容をダラダラと放送し続けたこの日の「ミヤネ屋」は、それでなくても厳しく見られがちな現在のテレビの品格を一段と落とした。  この番組の制作者もプロダクションも、テレビの公共財としての使命を忘れている。

[メディアゴン主筆・高橋のコメント]ネットでいえばまさしく。炎上狙いで、PV数を稼ぐ方法、当メディアゴンも、そのようなことが無きよう、肝に銘じます。

 

【あわせて読みたい】

The following two tabs change content below.

榛葉 健

榛葉健(しば・たけし) テレビプロデューサー、ドキュメンタリー映画監督 1963年東京生まれ。1987年、在阪民放局入社。さまざまなジャンルで幅広くドキュメンタリーを制作し、日本テレビ技術協会賞、坂田記念ジャーナリズム賞などを受賞。世界最高峰チョモランマの取材では、登山家たちが放置する大量のゴミを世界のテレビで初めて告発。1995年以降、阪神・淡路大震災関連のドキュメンタリー14本を制作。そのうち『with…若き女性美術作家の生涯』は、「日本賞・ユニセフ賞」「アジアテレビ賞」など数々の国際賞を受賞。東日本大震災の発生後は、私費で宮城県南三陸町や気仙沼市などに通い続け、映画「うたごころ」シリーズを制作。全国の劇場をはじめ各地で上映の輪が広がっている。