<誘導されるマスコミ記者>なぜマスコミは原子力規制委員会と原子力規制庁の批判をしないのか?

社会・メディア

石川和男[NPO法人社会保障経済研究所・理事長]
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日頃から権力への監視と批判を生業とすることを自認しているテレビ・新聞は、原子力推進を掲げる経済産業省や文部科学省に対しては辛辣な言葉を頻繁に浴びせる。
しかし、原子力規制を実施する原子力規制委員会と事務局の原子力規制庁には一切しない。与野党問わず政治家たちも、公の場では、規制委・規制庁を批判しない。
規制委・規制庁の業務は多岐に亘っているが、主なものは規制基準に関する適合性審査。これに関する合否が決しないと、原発運営が停滞したままになってしまう。ところが、今注目を集めているのは適合性審査の前の“プレ審査”。
これは、日本原子力発電・敦賀原発2号機の敷地内にある“破砕帯”が活断層であるかどうかを判定するためのもの。昨年2014年12月10日、「敦賀発電所敷地内破砕帯の調査に関する有識者会合ピア・レビュー会合」が開催された。有識者会合が書いた評価書案について『専門家』の意見を聴く場がピア・レビュー会合。評価書案は、敦賀原発2号機の建屋の直下を通る「D-1破砕帯」が活断層かどうかの判定について、“将来動く可能性がある”とするもの。
「有識者vs専門家」という構図のピア・レビュー会合。雰囲気こそ穏やかであったが、その内容は見るに堪えないものだった。2時間45分に及ぶ長い会合。興味と時間のある人は、この会合の映像も議事録も公開されているので、是非ともご覧いただきたい。
規制委での会議は専門家どうしの議論なので、その道を専門としていない素人にはなかなか理解できない。それでも、このピア・レビュー会合でのやり取りの中で、その道のプロでなくとも理解できそうな『専門家』の指摘部分を、以下の通り私なりに抜粋してみた。
[議事録] p.33・粟田上級主任研究員

「ここの断層については非常に解釈しにくいんですけども、これは本当に断層ですかねというのも、意見としてあるのですが」

[議事録 ]p.38・竹内教授

「有識者の評価に関しても、(中略)その根拠をちゃんと示していただいたほうがいいんじゃないでしょうか」

[議事録 ]p.39・大谷准教授

「事業者側の考え方をある意味否定をしたいということであれば、やっぱりそこは丁寧な説明が必要なのかなと思うんです」

[議事録] p.43・粟田上級主任研究員

「科学的でも技術的でもないですよね。それはもう明らかに何らかの別の判断が入ってるということになります」「やはり物事はきちっと正しく、データとして意味のあることを前面に出して、それの信頼性を付記するという形でいかないとまずいと思います」

[議事録]p.47・岡田名誉教授

「現場でちゃんとチェックされたんですか。(中略)一番重要なんですよね」

[議事録]p.48・粟田上級主任研究員

「データがきちっと評価してないんじゃないかという疑問を抱かれます」

[議事録]p.49・岡田名誉教授

「そこをちゃんと見てないというのだとちょっと著しくあれですよね、問題ですね」

[議事録]p.49・粟田上席主任研究員

「どの程度信頼できるかということもやはりあわせて示さないと、それは科学的ではないですよ」

[議事録]p.53・加藤座長

「安全側に判断するというのは、これはやはり科学ではなくて、行政であろうというふうに私には思えます」

これを読んだだけでも、“有識者会合”の評価書案に対して『専門家』はかなりの疑念・疑問を抱いていることがわかる。それでも、このピア・レビュー会合に関しては、以下に掲げた大手各紙の記事を見ればわかるが、有識者会合の評価書案を疑問視する専門家の指摘があったものの、評価書案の文言を修正するだけにとどめる旨を報じている。恐らく、規制委・規制庁が記者レクを行い、それをマスコミ各社がそのまま報じたのだろう。
朝日新聞:http://www.asahi.com/articles/DA3S11500668.html
毎日新聞:http://mainichi.jp/select/news/m20141211k0000m040069000c.html
産経新聞 :http://www.sankei.com/affairs/news/141210/afr1412100043-n1.html
日本経済新聞:http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS10H38_Q4A211C1PP8000/
時事通信:http://www.jiji.com/jc/zc?k=201412/2014121000835&g=soc
結果的に、規制委・規制庁による“報道統制”は奏功しているわけだ。これは健全な報道、ジャーナリズムでは決してない。ただ、産経新聞は、他の記事で規制委・規制庁を批判的に大きく論じている場合があり、全国紙では最も賛否バランスが取れていると思われる。特に、ピアレビュー会合から3日後の2014年12月13日付け「主張:敦賀原発の破砕帯 科学者の原点を忘れるな」は注目すべき論調だ。
もっとも、審議会や委員会で紛糾した場合、事務局である役所側は、直後の記者レクで、自分たちの思い通りの結論に記者たちを誘導することがしばしばある。円滑に物事を進めるためには、そうしないと仕方がない。
本件の場合、物事を進めるとは、D-1破砕帯が活断層であると結論付けることによって敦賀原発2号機を廃炉に追い込むことなのではないかと、筆者は推察している。
繰り返しになるが、これは報道の在り方としては不健全極まりないことだ。役所とマスコミが一体となって国民世論を誘導しているかのようである。規制委・規制庁は、「何ものにもとらわれず、科学的・技術的な見地から、独立して意思決定を行う」という組織理念に立ち返り、真に「科学的・技術的な見地」からの原子力規制機関に脱皮すべきだ。
そうでないと、それぞれの原発が、今後、再稼働プロセスに向かおうが、長期的な廃炉プロセスに向かおうが、規制委・規制庁は核燃料や原子炉に関する規制を実施する組織として内外から信頼を得られようがない。
 
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