<報道はエンタメか?>ドイツの「脱原発・再エネ拡大」を讃美するエンタメ依存の日本メディア


石川和男[NPO法人社会保障経済研究所・理事長]

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今日の日本メディアの大きな問題点の一つは報道が機能していないということだ。その根底にあるのは、テレビを中心としたメディアの「総エンタメ化」「総バラエティ化」だろう。

どんな問題でも、面白おかしく取り上げ、エンタメ化することでしか視聴率や話題性が取れなくなっている。そういった「エンタメ依存」が今日のメディアの質的低下を誘発しているとも言えよう。

内容や本質ではなく、政治家の言葉じりを捉え、面白おかしくあるいはスキャンダラスに紹介したり、報道する。国内の政治家や政府高官には強くでるくせに「外国の高官には弱い」「欧米讃美・日本卑下」といった自虐的な報道を目にすることは珍しくない。

確かに、自虐ネタはエンタメやお笑い基本であろうし、見る側も面白い。話題性もあるだろう。欧米の事例を「先進事例」として紹介、「それに対して日本は・・・」といった自虐は、よく使われるパターンだ。もちろん、裏をとったり、突っ込んで質問や調査もせずに、だ。

しかし、それで本当に報道メディアか? 報道はバラエティではない。十分な調査もせず、自国を虐めて視聴率を稼ぐなど、エンタメ化メディアそのものではないか。

エコやエネルギー、環境といった問題は特にその傾向が顕著だ。

今年2月上旬、日本記者クラブ取材団が欧州のエネルギー政策を取材するため、スウェーデン、アイスランド、ドイツを訪れた。それらの取材結果は、関係各紙が直後に縷々報じていた。特に、ドイツに関する記事には注目した。

ドイツは、日本が「自然エネルギー促進の師」と仰いでいる国。ドイツの制度を大いに参考にしつつ、日本は自然エネルギー(再生可能エネルギー)の固定価格買取制度(FIT)を2012年夏に導入した。

この取材団に参加した中央紙・地方紙から発せられるドイツ関連報道の中には、大きな違和感を覚えるものが多数あった。

筆者は、この3月中旬、実際に自分でドイツに出向き、連邦政府や州政府、産業団体や消費者団体など計10カ所で調査ヒアリングを行った。その結果、上記の違和感の理由は予想通りのものだった。

取材先のドイツ政府高官の発言を、何の突っ込みもなく、疑念も抱かず、語ったままを報じていると思われる記事があまりにも多いのだ。もはやこれは報道ではない。ただの聞き取りにすぎない。

この取材団からの報道に頻繁に登場するドイツ連邦政府高官のコメントを、日付順に抽出すると以下の通り。

◎2月12日付・愛媛新聞:「(日本で導入しているFITは)過去の政策だ」「(日本の原発再稼働問題やアジア各国の新増設について)それぞれが決めるべきこと」

◎2月22日付・産経新聞:「再エネ発電比率は26%。いまや最大の電力供給源」

◎2月26日付・新潟日報:「ドイツの再エネ技術は最先端。新しい風力や太陽光の施設は、新型の火力発電所と同じコストで発電できる」

◎3月5日付・愛媛新聞:「10年後には、再エネで国内需要を超える発電がされる日も来るだろう」、「買取制度は過去のもの。競争性を導入していく」

◎3月11日付・中日新聞:「(FIT導入で)電気料金が値上がりし、低所得者の生活苦が議論されたが、料金のせいではない。低所得者は本来、福祉で解決されるべきものであり、エネルギー問題ではない。再エネのコストは下がっており、電気料金は今後抑えられると思う」、「2014年でドイツ製品などの輸出が伸び、輸入を大きく上回った。私たちの政策は間違っていない」

このドイツ政府高官は、「脱原発・再エネ拡大」を推進する役割を背負っている。そのコメントが、脱原発や再エネ拡大に関して前向きで力強いものになるのは当然だ。それを記事化することは、決して間違ってはいない。

しかし、筆者がこの記者団に問いたいは、取材の時にこの高官に対して、「些かの突っ込み質問」をしなかったのか? ということだ。例えば、次のような疑問をぶつけたりはしなかったか?

—「10年後に再エネで国内需要を超える発電がされる日が来たとして、その際のベース電源(24時間フル稼働できる電源)は何か?」

—「ドイツの電気料金はEUの中でもかなり高い方だが、今後これをいかに引き下げていくのか?」

—「新型の火力発電所と同じコストで発電できる風力・太陽光の発電施設があるならば、それを見せてもらえるか?」

筆者は今年3月にドイツに出張し、連邦政府関係者など多数の方々から話を聴く機会を得た。そして、多くの疑問や懸念を直接ぶつけてみた。

その結果、例えば、再エネ導入に伴う電気料金上昇に関する状況について訊いたところ、

「家庭需要家を中心とした『エネルギー貧困』という問題が浮上しつつある。今以上に高い電気料金は払えないと悲鳴を上げる家庭需要家が出てきている」

と懸念の表情を見せた。

更に、再エネ賦課金は2000年〜2014年の累計で1000億ユーロ(約13兆円)を超えたが、「これを例えば技術革新に投入していたらどんなに良かっただろうか」といった再エネ拡大に対する諦観めいたコメントが発せられた。

原子力については、脱原発の流れは揺るぎないとしながらも、

「原子力を他の電源に替えれば電気料金が上がるのは当然」

「原子力はCO2排出量削減に関してとても有効。フランス、ベルギー、スイスなどドイツ周辺諸国では、今後とも原子力発電が推進されていくだろう」

とのコメントがあった。

ある物事を推進したい立場の人を取材すれば、それを推進することに関して自信や熱意に満ち溢れた力強いコメントが返ってくるのは当たり前のことである。そのコメントだけを拾って記事にすれば、読者は誰でもその物事が必ず進むものだと思い込んでしまうのではないだろうか。

原子力や再エネを巡る報道では、多くの記事が「脱原発・再エネ拡大」への誘導を企図して書かれるのだろうと改めて思ってしまう。誘導的でない、中立的な記事も稀にあるが、残念ながらそうした報道はまだまだ少ない。

報道とはエンタメでもないし、バラエティでもないことを肝に命じたい。
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石川和男

石川和男(いしかわ・かずお)NPO法人社会保障経済研究所・理事長。1965年、福岡県生まれ。東京大学工学部卒業。1989年、通商産業省(現経済産業省)入省。エネルギー政策、産業保安政策、産業金融政策、中小企業政策、消費者政策、物流・流通政策などに従事。2007年3月、経済産業省を退官。2008〜09年、内閣官房・国家公務員制度改革本部、東京財団上席研究員、政策研究大学院大学客員教授、政府の規制改革会議、行政刷新会議WGなどの委員を歴任。