<フジ「IPPONグランプリ」の弱み>芸人を「かっこいいもの」と扱うのはもう限界


高橋維新[弁護士]

***

IPPONグランプリ(フジテレビ・2015年5月23日に放映)は、大喜利である。

言うまでもないが、大喜利は、与えられたお題に演者がボケて答えるというお笑いのショウである。そして、この手法は、とっくに限界が来ている。大喜利というショウ自体が頭打ちなのである。

大喜利力は、お笑いにおける基礎体力に当たるのは間違いがない。「このシチュエーションならこうボケる」というのを、質・量ともに高いレベルで出せることが一流のお笑いでいるための一つの条件である。こうやって考えたボケを適切に組み合わせていくと、漫才やコントの台本になる。

つまり、大喜利をやるときと漫才・コントのネタを書くときの頭の使い方は一緒なのである。両者で異なるのは、ネタを書くときは、全体の流れの中でのボケの位置付けや、前後の継ぎ目なども考える必要があるということである。

例えば前半で出したボケをしばらく時間を置いてからまた出せば「天丼」という形でより高いレベルの笑いが生み出せる。大オチに向けての伏線を冒頭に張っておけば深みのあるネタになる。

ところが大喜利では、こういう全体の流れが全く関係なしに、一つ一つのボケがぶつ切りで提供される。個別のボケのレベルが高くても、きっちりと練られた漫才やコントよりは全体のクオリティが低くなるのは不可避なのである。

強みがあるとすれば、基本的にはアドリブでボケを出していくことになるので、視聴者のハードルも多少下がる点である。しかし、「大喜利」と銘打ってこれをやってしまうと、「今から画面の中の彼らはおもしろいことを言います」と宣明するに等しいので、ウケ狙いでやっているということが視聴者に分かり、結局ハードルが上がってしまう。大喜利的なボケの積み重ねは、真面目なクイズなどの状況で、ひっそりとやるべきものなのである。そうであれば視聴者も油断しているので、奇襲の妙味を存分に発揮することができる。

「メロスはなぜ激怒したのでしょうか」という大喜利のお題は作れる。作れるのだが、わざわざ大喜利と銘打ってやることではない。クイズ番組で同じ問題が出たときにボケろという話である。無論、現在は真面目なクイズ番組でこれをやると敬遠されることの方が多いと思うので、このようなシチュエーションの設定は番組側が行うべきことである。大喜利をやるにしても、番組の側がまずは真面目なクイズ番組の体で始めればいいのである。

これは、全ての大喜利に共通する弱みである。

もう一つ、IPPONグランプリには、IPPONグランプリに特有の弱みがある。

この番組は、THE MANZAIやすべらない話と同じように、芸人や大喜利を「カッコいいもの」として取り扱っている。オープニングやスタジオセッとの作りはカッコいい感じにしてあるし、観覧ゲストには演者をとにかく褒めさせる。

そうなると、芸人は自分がおもしろい大喜利のできる人間であることを示さざるを得なくなる。するとまず、演者が緊張するという弊害が生まれる。次に、スベった場合にそれを笑いに変えにくくなる。「笑いのとれる芸人」がカッコよい芸人であって、IPPONグランプリもその頂点を決める番組ということになってしまうので、スベることが忌避されるのである。

スベった場合でも適切なツッコミがあれば笑いを生み出せるのが「お笑い」という手法の良さなのに、それができなくなるのである。このスベった時の笑いは、普通におもしろい答えが出たときの笑いとは種類が違うものなので、視聴者にとってはアクセントになるのだが、これがなくなるので笑いも一本調子になる。

笑点には、木久扇というスベリ枠がいる。これは明らかに上記の「スベリ芸による笑いのアクセント」を狙ったものである。「座布団をとりあげる」というスベった時のツッコミまで用意されているのである。

IPPONグランプリにも、今回の狩野英孝や斎藤司のように、毎回「スベリ枠として起用されたのではないか」という人は混じっている。ボケの点数も分かりやすく視覚化されるため、「低い点数しか入らないこと」がツッコミにもなっている。

ところが肝心の番組全体がスベリを許さないような空気を生み出す作りになっているので、彼らがスベった時も視聴者はどうすればいいかが分かりにくい。コンセプトが中途半端なのである。

本当に純粋に大喜利のナンバー1を決めたいのであればスベリ枠は廃止すべき(そして松本はプレイヤーの側に回るべき)であるし、おもしろいテレビショウを目指すのであれば、芸人をカッコいい人扱いするのはやめるべきである。視聴者のためになるのは確実に後者なので、筆者としては笑点に近付ける方向で番組を変えていってほしいと思っている。

芸人がカッコつけたりモテようとしたりしたら終わりなのである。

中身であるが、個人的に一番おもしろいと思ったのは板尾である。それはもう、図抜けていた。なので、彼がいないBブロックと決勝戦は集中して見ることができなかった。

 

【あわせて読みたい】

The following two tabs change content below.
高橋維新(たかはし・いしん)弁護士、コラム二スト。1987年、東京生まれ。2006年、東京大学法学部入学。2010年より「マヒ郎」のペンネームでファミ通町内会へ「ハガキ職人」として投稿を始める。現役ハガキ職人を続けながら、2012年に司法試験合格。2013年、弁護士登録(函館弁護士会)。ファミ通町内会長(第5代)。