<臭いニオイは元から絶て>テレビ局のスクープ続く森友問題

社会・メディア

両角敏明[テレビディレクター/プロデューサー]
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テレビ各社の報道セクションは基本的に芸能ニュースを取り扱いません。よってキー局には芸能情報を統括する「芸能デスク」といった方が存在します。局の社員でないことも多く、いわば芸能情報を取り扱う職人のような方々です。
筆者の印象では、紙媒体を含めて芸能情報関係者間の情報交換は活発で、時としてスクープを取るよりも情報を共有し、みんなでネタのバリューを大きく育てて行く傾向もあるようです。ネタが大きくなることは週刊誌の販売部数を伸ばし、テレビが視聴率を上げる方法でもあります。よって週刊誌のスクープをテレビ各局は「週刊○○によると」とクレジットし、ためらいなく伝えます。
週刊誌ではなく新聞がスクープした場合はそうも行かないようで、かなりの大スクープでもテレビ各局が「○○新聞が伝えました」と報じることは希で、多くの場合は追いかけ取材をして自社取材の結果として伝えます。
他のテレビ局がスクープした場合ですが、たとえばフジテレビが「日本テレビが伝えるところによると」などと報じる事はほぼありません。ここのところフジ系のFNNがスマッシュヒットをふたつ続けました。しかし、他局のどこも「FNNが伝えるところによると」とはやりませんでした。
FNNスクープのひとつは自衛隊のPKO日報問題で、稲田防衛相(当時)が陸自内でも日報が見つかったことを知っていたのかどうか、情報非開示に同意していたのかの問題です。
どのメディアも2月15日に実質的な報告を受けていたのではないかと報じている中で、FNNはその前々日である2月13日に稲田氏を含む幹部が集まった時の詳細なメモを独自に入手し、稲田氏が陸自に日報があったことを「けしからん」とか「明日なんて言おう」などと語っていたとスクープしたのです。
放送ではここに同席した湯浅陸幕副長の写真も示し、メモそのものも見せています。フジ系では防衛省担当記者なども出演させて繰り返し報じましたが、他局、他紙が追随できなかったこともあってか、爆発的なスクープとはならないうちに稲田氏が辞めてしまいました。
もう一つは森友問題で、国がゴミ撤去費用算出前に籠池氏に価格提示をしていたのではないかという新たな疑惑のニュースです。この件を最初に伝えたのはNHKでした。これを異例にも7月27日のフジ系の「直撃LIVE!グッデイ」が、NHKが伝えたとはっきり明示した上で、その内容をかなりのボリュームで取り上げました。重大な事実とは言え、ほぼ全面NHKの引用ですから、フジは珍しいことをやるなという印象を受けました。
NHKが伝えたのは、近畿財務局が森友学園の弁護士に対し昨年の2月14日に売買価格を事前提示していたことが関係者への取材からわかったという内容でした。

近畿財務局「いくらまで支払える?」
弁護士 「約1億6千万円」
近畿財務局 「土壌改良工事で負担予定の1億3200万円を上回らなければ売れない」

こうした会話があったとし、「関係者への取材」というだけでネタの出所も証拠も示されませんでした。しかし相当のウラが取れていなければNHKが報じるはずもなく、事実であれば、これまでの政府答弁を真っ向からひっくり返す重大なスクープでした。
同じ27日、テレビ朝日の「報道ステーション」は密着取材していた籠池泰典氏が1枚のペーパーを示しながらNHKの報道内容と同じことを語ったシーンを報じました。ペーパーはふたりの籠池氏側弁護士の間で交わされたもので、弁護士が近畿財務局との話し合いで用地取得のためにいくらなら支払えるかと聞かれ、籠池氏サイドが1億6千万円と答えたという話でした。
「国の担当者から、あの土地は土壌改良に1億3千万円かけているので、1億3千万円より安くは絶対にならないです、と言われた」という文言もあり、前日NHKが伝えた内容をガッチリ補完するような内容でした。
【参考】国会審議再開は民進党による森友加計疑惑封じだ
その5日後の8月1日、フジ系お昼のニュース「FNNスピーク」がびっくりするようなスクープを報じます。独自に入手したとして上述内容を全面的に証明する内容の音声データを公開したのです。籠池夫妻と近畿財務局の池田靖前国有財産統括官とみられる人物との会話を記録したクリアな音声データです。まさに自衛隊日報問題メモ入手に続くFNN(データ入手は関西テレビ?)のスクープでした。これ以降FNN(フジ・関テレ)系ではニュースはもとより様々なワイド番組でこの音声データを伝えて行きます。
音声データには昨年3月のものと、5月のものの2種類があるようです。3月のものは、

池田「まず一点お詫びの点はですね地下埋設物の撤去工事に関してはきちっと森友学園理事長、副園長に情報が伝わっていなかった点は我々にも反省点としてありまして」
「今後の対応につきましては大阪航空局からご説明いただこうと思っています」
「今回出てきた産業廃棄物というものは国の方に瑕疵があるということが判断されますので、その撤去については国の方でやりたいなと思っておりまして」

国は瑕疵を認めたものの、ゴミ処理については公募入札での撤去しかできないと説明します。すると籠池氏は切り札を出します。

籠池「きのう財務省から出たとたんに安倍夫人から電話がありましたよ。『どうなりました?』て。『頑張って下さい』って言ってはったけど、なんて答えたら良いんやろ?分からんわ、どうしよ。」

5月のものは、

池田「できるだけ早く価格提示をさせていただいて、ちょっとずつ土壌も処分しているけれど、ですので、そこそこの処分費を見込んで価格計上をさせて貰おうと思ったんですよ。だから我々の見込んでいる金額よりも(撤去費が)少なくても我々は何も言わない」
「理事長がおっしゃる0円に近い(価格)がどういうふうにお考えになられているか、売却価格が0円ということなのかなと思うが、私どもが以前から申し上げているのは、有益費(前の撤去費用)の1億3000万円という数字を国費として払っているので、その分の金額ぐらいは少なくとも売却価格に出てくると、そこはなんとかご理解いただきたい」

やはり音声データにはリアリテイがあります。フジ系は聞かせる音声内容を少し変えながら報道を続けていますので、まだまだ出していない「有効部分」があるのかもしれません。
フジ系が音声データならテレ朝「報道ステーション」はペーパーデータで追いかけます。昨年3月30日に籠池夫妻と弁護士、設計会社、施工会社との打ち合わせ時のメモです。そこには事実とすればもの凄いことがメモられています。

「近畿財務局と大阪航空局のストーリーは、調査では分からなかった内容で瑕疵を見つけて行くことで価値を下げて行きたい」
「9メートルの深さから何か出てくるという報告をするよう財務局から学園サイドに言われている」

これでは国が記録を残しておけるはずがありません。事実なら官僚は国会であまりにデタラメな虚偽答弁を繰り返していたことになります。単に背任とかで済むのかどうか。悪質な犯罪とすら思えます。
フジテレビを中心にNHK、テレ朝が続く森友学園問題でのスクープ合戦ですが、いずれも情報の出所は籠池氏周辺としか考えられません。(一部は財務省漏洩説も)
もしかしたら、逮捕を覚悟した籠池氏側の強烈な最後っ屁かもしれません。テレ朝もこの音声データ入手に動いているという話もあり、遠からずこの音声データもメモ類も各局、そして野党の手にも渡るでしょうから、新内閣は真相究明を求められるはずです。
安倍さんサイドは、大阪地検が捜査中などという言い分けで逃げ回るのでしょうが、官僚たちが国会で大嘘をつきまくっていた責任を考えれば、地検とは別に国会自身が真偽を糺さなければなりません。そして事実なら財務大臣や国交大臣の首が飛んでも不思議ではありません。
新内閣発足時の会見で安倍総理は森友、加計、陸自日報などの疑惑について冒頭8秒間も頭を垂れるという異例の陳謝をしました。しかしその後、再発防止についてはいくらか触れたものの、疑惑を解明する意向についてはほとんど触れませんでした。
振る舞いを殊勝に見せながら、今も怪しいニオイが芬々とする疑惑には蓋をして逃げ切ろうという魂胆が丸見えです。そういう了見が支持率急落の要因だということをまだお分かりにならない安倍総理には、むかし流行ったこんなコマーシャルをぜひとも思い出していただきたいものです。

「臭い臭い 臭いニオイは元から絶たなきゃダメ」

 
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