メルトダウン隠ぺい枝野氏の安倍独裁法への協力 -植草一秀
植草一秀[経済評論家]
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2011年3月11日14時46分、宮城県牡鹿半島の東南東沖130キロメートルの海底を震源として、東北地方太平洋沖地震が発生した。地震の規模は、日本における観測史上最大のマグニチュード9.0であると発表された。
同日、原子力緊急事態宣言が発令された。
「平成23年(2011年)16時36分、東京電力(株)福島第一原子力発電所において、原子力災害対策特別措置法第15条1項2号の規定に該当する事象が発生し、原子力災害の拡大の防止を図るための応急の対策を実施する必要があると認められたため、同条の規定に基づき、原子力緊急事態宣言を発する。」
これが「原子力緊急事態宣言」の全文。
当時の枝野幸男官房長官は、
「原子炉そのものにいま問題があるわけではございません。万が一の場合の影響が激しいものですから、万全を期すということで、緊急事態宣言を発令して、最大限の万全の対応をとろうということでございます。放射能が現に漏れているとか、現に漏れるような状況になっているということではございません」
と述べたが、すでにこのとき、福島第一原発は全署停電=ステーションブラックアウトに陥っていた。原子炉が電源を喪失すれば、原子炉を冷却する装置が作動しなくなる。原子炉内の水分が完全に蒸発し、核燃料がむき出しの状態になれば、燃料が溶融を始めるのは時間の問題となる。
実際に福島第一原発はステーションブラックアウトにより、1、3、4号機の原子炉建屋で相次いで水素爆発が発生し、大量の放射性物質が外部に放出する人類史上最悪レベルの放射能汚染災害を生じた。福島第一原発では、地震発生から2時間も経過してない当日15時42分に原子力安全・保安院に対して、東京電力から福島第一原発1、2号機で炉心を冷やす緊急炉心冷却装置(ECCS)が稼動しなくなったとの報告が入っている。NHKは2011年3月12日正午のニュース放送で次のように放送した。
「原子力発電所に関する情報です。えー、原子力安全保安院などによりますと、福島第一原子力発電所一号機では、原子炉を冷やす水の高さが下がり、午前11時20分現在で、核燃料棒を束ねた燃料集合体が水面の上、最大で90センチほど露出する危険な状態になったということです。このため消火用に貯めていた水など、およそ2万7000リットルを仮設のポンプなどを使って水の高さをあげるための作業を行っているということです。この情報を繰り返します」
この原稿を読み上げたあと、約7秒間の沈黙があり、横から。
「ちょっとね、いまの原稿使っちゃいけないんだって」
という声が入った。アナウンサーは、当初の原稿を繰り返さず、
「改めて原発に関する情報です。福島県にある福島第一原子力発電所の一号機では、原子炉が入った格納容器の圧力が高まっているため、東京電力が容器内の空気を外部に放出するベントの作業を始めましたが、格納容器のすぐ近くにある弁を開く現場の放射線が強いことから、作業をいったん中断し、今後の対応を検討しています。」
と別の原稿を読み上げた。3月11日夕刻にはメルトダウンに移行することが明確に認識され、3月12日正午のNHKニュースがメルトダウンの事実をいったん読み上げながら、その原稿を封印しようとした。しかし、電波で流れてしまった事実を消去することはできなかった。経済産業省原子力安全・保安院がメルトダウンの事実を認めたのは同年6月6日のことだ。政府の緊急災害対策本部の震災当日3月11日深夜の文書には、福島第一原発2号機で22時20分頃から炉心損傷が始まるとの予測結果を記載されていた。翌12日には同院の中村幸一郎審議官が記者会見で「炉心溶融が進んでいる可能性がある」と発言したが、同日夜に更迭された。
菅内閣の事実隠ぺいが明らかだ。原発メルトダウンの事実を隠ぺいした枝野幸男氏がいま、コロナに乗じた政府への独裁権限付与に全面協力している。コロナに伴う緊急事態宣言法定化は有害無益だが、原子力災害対策特別措置法第15条に基づく「原子力緊急事態宣言」は発令されたまま、いまなお解除されていない。福島では強引に避難指示解除準備区域での避難指示が解除されたが、これは、年間線量20ミリシーベルトの地域への居住を強制するものだ。あり得ない暴挙である。
安倍内閣がイベント等の自粛要請期間を10日間ほど延長するとしたのは、3月26日から予定されている聖火リレーに合わせたもの。日本の感染確認者数は人為的にコントロールされている。感染が拡大するなかでの聖火リレーなどあり得ない。フクシマ原発事故は原子力緊急事態宣言が発令されたままの状況下で、まったく収束していない。東京五輪中止を速やかに決定するべきだ。原発事故の収束もできずに五輪で騒ぐべき局面でない。
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