<元海上自衛隊トップ・海将が緊急提言(4)>日本は米国が武力攻撃を受けても一緒に「反撃・攻撃」は絶対にできない


伊藤俊幸[元・海上自衛隊 海将]
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「自衛権行使には制約がある」について説明します。

筆者のこれまでの3つのテーマ(必要最小限度の実力行使とは?グレーゾーン事態安保法制がなぜ今必要か?)をお読みになった方は、「何だか世の中で議論されていることとイメージ違うな」とお感じになったと思います。

それは何故でしょうか?

それは今の議論が、昨年2014年7月の閣議決定や今回の安全保障法案の「中身」そのもののではなく、「集団的自衛権の一部行使は是か非か」から始まり、そして今や「一部行使」も消えて「集団的自衛権は合憲か違憲か」の議論になってしまっているからです。

筆者がこれまで述べてきたことは、閣議決定の中身と法案の趣旨等の解説です。そもそもこの閣議決定も法案のどちらにも「集団的自衛権」の文言は入っていないのです。

ご承知のとおり、国際法上の集団的自衛権とは、

「武力攻撃を受けていない友好国等が、武力攻撃を受けた同盟国や被攻撃国から要請された場合、被攻撃国に代わって或いは一緒に武力攻撃をしてきた国に対し武力を行使すること」

といって良いでしょう。

国連憲章第51条では「個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない」と自然権として個別的も集団的であれ国家が侵略に対して抵抗するのは、

「当然の権利だからその権利を害するものではありませんよ」

と記載されています。

その一方で「国連安保理が必要な措置をとるまでの間」と制約も課せられており、報告義務もあります。これは自衛戦争の名で侵略が繰り返された戦前の反省が国連憲章には込められているのです。

2001年9月11日ニューヨーク・ワシントンで同時多発テロが生起しました。当時、筆者は在米国防衛駐在官として米国防総省とのやり取りを担当しておりましたが、米国は、それまで犯罪の範疇で取り扱っていた「テロ」を「戦争」と定義しました。

米国は個別的自衛権をNATOや豪州は集団的自衛権を発動しましたが、これらは全てテロ発生翌日9月12日の国連安保理決議1368によって許可されたのです。つまり自衛権の行使そのものについても、戦前とは異なり国連憲章により極めて厳格に取り扱われるようになっているのです。

戦後70年を経た現代社会は「同盟国から言われたら何でも付き合うことになる」という時代ではないのです。

さらに今回の新3要件にも、

「他に手段がなく」

「必要最小限度の実力行使」

と定められていることから、武力攻撃を受けた米国に代わって或いは一緒に、当該国家又は国家に準じた組織に対し「反撃」「攻撃」することは絶対にできないのです。

 

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伊藤俊幸

伊藤俊幸(いとう・としゆき)元海上自衛隊トップ・海将。 昭和33年生まれ。防衛大(機械工学)卒業。筑波大学修士課程修了。海幕防衛部防衛課(平成6)、潜水艦あらしお副長兼航海長(平成8)、潜水艦はやしお艦長(平成9)、外務事務官(平成11)、第2潜水隊司令(平成14)、海幕監理部総務課広報室長(平成15)、海幕指揮通信・情報部情報課長(平成18)、情報本部 運用支援担当情報官(平成21)、海幕指揮通信・情報部長(平成22)、海上自衛隊 第2術科学校長(平成23)、統合幕僚学校長(平成25)を経て。平成26年、呉地方総監。平成27年退職。