「ドキュメンタリー冬の時代」のドキュメンタリー番組はBSが注目


両角敏明[テレビディレクター/プロデューサー]

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民放地上波ゴールデン/プライムから本格的なドキュメンタリー枠が消えてもう長い時間がたっています。スペシャル枠はかなりありますが、旅やグルメや温泉などがメインですから、ドキュメンタリーと言えるものはNHKにおまかせかと思いきや、人物ドキュメントではかなり健闘している枠がBSにありました。

BS朝日・木曜夜7時~8時54分放送の『ザ・ドキュメンタリー』です。とりわけ芸能史に一時代を築いた芸能人にフォーカスした一連の作品は見応えがあります。

BS朝日『ザ・ドキュメンタリー』におけるこのジャンルではこれまで、

  • 93歳!今なお現役 爆笑漫才師・内海桂子
  • 闘い続けた男!大島渚 ~盟友・田原総一朗がたどる~
  • 坂本九~幸せを売る芸人~
  • 特別編 島倉千代子 三回忌 熱唱30曲! 貴重映像で綴る歌人生
  • うちら陽気な「かしまし娘」
  • 植木等「スーダラ伝説」~日本一の無責任男 お父さんたちへの応援歌~
  • 慎太郎と裕次郎   時代に風穴をあけた若者たち
  • 「伝説の不死鳥コンサート」美空ひばりが遺したかった歌声

などの作品があります。

筆者は、このうち内海桂子、大島渚、坂本九、かしまし娘、植木等の5本を視ました。いずれも2時間をたっぷりと使い、適度なテンポで、けっして煽るような演出を入れず、それでいてその人を描くに必要なエポックをていねいに辿っています。そしてこの5本には共通して筆者が感心した点が三つあります。

ひとつは、人物やエポックを語る証言者についてです。筆者は昭和を中心とした芸能史については多少なりとも知識を持っているつもりですが、主人公やエピソードを語るにもっとも的確な証言者を可能な限り取材していると感じます。

二つ目は主人公の内部に入り込んでいることです。植木等さんの場合、戦時中に反戦を貫いた僧侶である父親との葛藤が描かれます。内海桂子さんで言えば相方内海好江さんとの衝突を、大島渚さんは創造社の解散と度重なる闘病を、かしまし娘は姉妹間の軋轢などの内側の事実が描かれます。

また「心の内」の内部ばかりでなく、物理的に家の中などのプライバシーの部分にもカメラを入れています。内海桂子さんの回では24歳年下の夫でマネージャーの成田常也さんとの暮らしぶりをかなり赤らさまに、かしまし娘の場合は3人の自宅での老いの日常を、大島渚さんなら妻小山明子さんが鬱病になるほどの介護の現実を、坂本九さんは妻柏木由紀子さんが暮らすご自宅、などなど、ドキュメンタリーなら撮りたいと思うものを多くは家庭に入り込んで取材しています。

三つ目は資料映像にかなり力を入れて揃えていることです。内海桂子・好江の全盛期の漫才、かしまし娘の舞台、クレイジーキャッツが舞台で演じた伝説の音楽コントなどを楽しむことが出来ます。ようするに、総じて手を抜いていない感じがするドキュメンタリー番組なのです。

少し話が逸れますが、芸人の全盛期っていうのは凄いものです。『ザ・ドキュメンタリー』最新の内海桂子さんの回では桂子・好江の漫才を何本か視ることができますが、黄金期、好江さんが実に華やかで達者で勢いがあり、その佇まいに下町の風情があふれていたことをあらためて気づかされます。

いまや絶滅してしまった芸人の「粋」を若い人にもぜひとも視て欲しいのですが、早くして胃がんで逝ってしまったことが悔やまれます。

話の逸れついでに、筆者が桂子・好江さんと青森の酸ヶ湯温泉へロケに行った時のことを思い出しました。今回の番組の中で桂子さんが「お風呂には裸ではいるのが当たり前だから温泉のロケでもタオルで隠したりはしない」とおっしゃっていました。

そのとおりで筆者のロケでも、好江さんは小さなタオルを使って必要な部分をうまく隠しますが、桂子さんには前を隠していただけませんでした。やむなく編集でその「該当部分」を消して行くのですが、アナログ時代ではこれは想像を超える手間のかかる作業で、わずか1分ほどの編集に該当部分を隠すだけで8時間ほどかかったことを思い出します。

漫才コンビというのは概して仲が良くありません。長年コンビを組んでいればお互いが鬱陶しくもなるもので、普段からお互いに距離を取りたがりますから、スタッフはロケ中それなりに気をつかいます。

桂子・好江のお二方は、ロケ中も移動中も、つかず離れず微妙な距離感でスタッフに気を使わせないようにお二人の方がそれとなく気を使ってくださいました。

『ザ・ドキュメンタリー』ではこうしたお二人の微妙な関係を素直にたどって行きます。桂子さんは28才の時にまだ14才の好江さんを弟子扱いとしながら相方に選びます。芸ができない好江さんを厳しく仕込み、時にはいびるようなこともあったと桂子さん自身が語っています。

足手まといになっている自分に耐えきれず好江さんはとうとう睡眠薬を大量に飲んで自殺を図ります。幸い死には至らず、その後、好江さんは一念発起し徐々に才能を開花させて行きます。

そして二人は念願だったNHK漫才コンクールで優勝します。さらに時とともに好江さんの芸は伸び、桂子さんといつまでも師匠と弟子という関係にはおさまらなくなります。

二人の間はきしみつつ、数十年の歳月をかけて桂子・好江の円熟した関係性が生まれてくるまでを、今回の番組は力みもなく描いています。

内海桂子・内海好江コンビにかぎらず、上記の作品群はいずれも昭和の芸能に興味がある方には「正史」と言えるような内容で、是非ともごらんになっていただきたいのですが、残念ながら再放送があるかどうかは不明です。webを見てもオンデマンドのサービスもないようで、番組表を気にしていただくしかないようです。

それから、この1月にBSフジのサタデースペシャル枠で『われらのヒーロー伝説 渥美清』が放送されていました。倍賞千恵子さん、前田吟さん、佐藤蛾次郎さんが集まって寅さんや渥美清さんについて語りあうのをベースにしたドキュメント番組ですが、かなりの「寅さん通」を任じる筆者が聞いても知らなかったお話しがたくさんあって興味深い内容でした。

どうやら昭和の芸能に関するドキュメンタリーはBSに注目のようです。

 

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両角敏明

両角敏明(もろずみ・としあき)テレビディレクター、プロデューサー。 バラエティ、報道、情報、すべての番組を手がけてきた。