<ノンフィクションの種>テレビでおいしさをどう表現したら良いのか、レポーターはみな真剣に考えている

高橋正嘉[TBS「時事放談」プロデューサー]

 
テレビでおいしさをどう表現したら良いのか、レポーターはみな真剣に考えている。
ある場合にはその表現が芸になったりする。味は説明されてもなかなか実感がわかないが、それでもやはり必要である。説明がなければ全くわからない。とはいっても食べる前から用意されていたような言葉はすぐわかる。しらけてしまう。人に味を伝えるのはやはり難しい。
かつて、豆腐を取材していたことがある。なかなか面白い取材だった。シンプルな食材だけに奥が深い。いくつもの取材をしている中で妙な豆腐にめぐり合った。竹豆腐だ。
この竹豆腐変わった方が開発していた。豆腐屋さんでありながら化学の研究者でイギリスの王室科学研究所に論文を送り掲載されたことがあるという、イリノイ大学の客員教授でもあるという方だった。
詳しい理屈は忘れた。いやわからない。アインシュタインのブラウン運動を豆腐作りに利用するとおっしゃっていた。気体や液体は絶えず熱運動をしているというものでその動き方は不規則で、熱が高くなると動き方は激しくなるというものだが、それがどう豆腐作りに生かされるのかはわからない。
豆腐作りは温度管理が難しい。この機械はそれが出来るといっていた。
ちょっと怪しげな方だった。いや、怪しげに見える方だった。大阪は岸和田市の方だ。大きな機械があった。その湯を使って豆腐を作り竹の中に入れて固めるのだが、期待はしていなかった。豆腐屋さんというより工場という感じの場所だ。
豆腐は竹の筒に流し込まれていた。竹はちょっと大きさが不ぞろいだった。節から10センチほどの場所に穴が切ってあり、覗き込むようにスプーンでなければ食べられない。レポーターは勧められるままに食べた。
レポーターは食べた瞬間、目を見開いた。びっくりしている。まだ実験的に作っている豆腐だった。凝固剤は使わない苦汁だけの絹ごし豆腐。竹の筒がしっかりしているので型崩れはしない。レポーターも奇妙な豆腐としか認識していなかったのだ。だがその驚きが大きな目に表現された。味は「甘い」と表現した。
そして竹に入っていた豆腐を食べ続けた。スプーンで掬って食べていたのだが、その動きが止まらない。竹の底までスプーンが届き、それでも掬い続ける。「絶品です」と言った。何度も言った。そしてまた掬う。まだ食べたいというレポーターの気持ちが伝わった。掬ってももう豆腐は残っていなかった。
しかし、その後竹豆腐はずいぶんあちこちで発売されたが、あの豆腐とは別物だった。当時はすぐに売り出したいといっていたが、大量生産には向いていなかったのかもしれない。市販されたとはとうとう聞かなかった。だが、「甘い」と言って竹の筒の底まで何度もスプーンでさらったレポーターの顔は今も忘れられない。
本当においしそうな顔をすると、後々までその顔を覚えているものだ。