<小説や映画はマイナーなフィクション>フィクションといえば今や「アニメや漫画」が代名詞 – 茂木健一郎


茂木健一郎[脳科学者]

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脳がフィクションをつくる能力について議論するとき、「どんなフィクションが好きですか?」と聞くことがある。

それで、小学生あたりから大人の方まで、最近、「どんなフィクションが好きか?」と聞くときの方法が変わってきた。

一昔前は、「フィクション」というと、小説が真っ先にきて、その次に映画とかだったのかもしれないけれども、今はそうではない。多くの人が、フィクションの第一選択として、漫画やアニメを挙げるようになってきているのだ。

だから、「どんなフィクションが好きですか?」と聞く時に、補って「漫画とか、アニメとか、小説とか、映画とか」と聞く。すると、ほぼ8割から9割、漫画かアニメの作品名が返ってくる。小説や映画は少数派だ。

フィクションと言うと、漫画やアニメが中心である。これが、現在の日本の、小学校から30代くらいまでの方の、等身大の心象風景なのだと思う。そして、そのことがフラットに事実としてあって、そこに、価値観からの評価はない。

今や、小説や映画、特に小説は「マイナー」な分野なのだということを実感する。私自身は、フィクションでは圧倒的に小説や映画に接している時間が多いが、今や少数派なんだということを認識させられる。

さらに面白いのは、小学生、中学生、高校生あたりが挙げるアニメや漫画の作品名が、聞いたことがないものが多いことで、世界が完全に分裂してしまっていることを実感する。メジャーになった作品は、彼らの宇宙の一部でしかないのだ。

大人が子どもたちと向き合う時に、「名作を読もう」ということで漱石や太宰を挙げるのはもちろんいいと思うのだけれども、それと少なくとも同等の時間をつかって、彼らの世界で流行っている作品を教えてもらわないと、対称性が失われる。

私は、小中高生と向き合うときは、彼らが先生だというつもりで、「どんなのが流行っているの?」と教えてもらう。その中で、「弱虫ペダル」や、「オトメイト」みたいな固有名詞を教えてもらう。へえー、と驚く。

もちろん、子どもたちだって、昔からの名作を読んだ方がいいけど、大人たちも、子どもたちの世界で流行っていることに関心をもった方が、世界が広がると思う。

フィクションの第一選択は、今やアニメや漫画だということを、肝に銘じなければならない。

 (本記事は、著者のTwitterを元にした編集・転載記事です)

 

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茂木健一郎

茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)脳科学者。株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所上級研究員。1962年10月20日、東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程終了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を出て現在に至る。「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究するとともに文芸評論、美術評論にも取り組んでいる。