<フジ転落原因は「世間の感覚」とのズレ>藤井フミヤ長男のフジテレビ入社は「コネ採用」か?[吉野嘉高]


吉野嘉高[筑紫女学園大学・教授/元フジテレビ・プロデューサー]

***

“コネ採用”なんてどの業界にもある。テレビ業界もまた然り。

フジテレビでは4月1日、ミュージシャン・藤井フミヤさんの長男・藤井弘輝さんが入社した。巷では“コネ採用”だと騒がれている。しかし本当にそうなのか?

他局に比べて親が著名人のフジテレビアナウンサーは多い。サッカー解説者・永島昭浩氏の娘・永島優美さんや俳優・高橋英樹さんの娘で既に退職している高橋真麻さんなども思い浮かぶ。彼女らも“コネ採用”だったのか?

その答えは“コネ採用”という言葉の定義によって変わるだろう。

“コネ採用”という言葉は、実力もないのに親の力だけで不公正に就職試験をすり抜けたようなネガティブな意味で使われることが多い。フジテレビの採用担当者に聞けば、この意味での“コネ採用”はなかったと主張するだろう。「彼らはアナウンサーとしての能力があったから入社できたのだ」と。

著名な親の七光りだけで採用されるほど、キー局のアナウンサーの入社試験はいい加減ではない。局のイメージを左右する人材である。アナウンス能力やコミュニケーション能力が合格レベルに達していただけでなく人柄にも魅力があったと考えられる。

そう考えると、確かに数千倍の倍率となる難関のアナウンサー試験を突破して入社する優秀な人材が「たまたま」著名人の子供であることはあるだろう。しかしフジテレビに関しては、その数が飛びぬけて多いということは「たまたま」選ばれたというより、採用試験において何らかの加点評価があったと考えるほうが自然だろう。

しかし、それは不公正な“コネ採用”と呼ぶものではなく、企業に認められる裁量の範囲内にある採用基準だと私は考えている。なぜならフジテレビがこうした人材を採用したがる理由には一定の合理性があるからだ。

著名人の子供は、小さいころから親がテレビに出演する姿を見てきたから、自然にテレビ業界への親和性が高くなり、入社後、水を得た魚のように能力を発揮する可能性が高い。また、そのような出自をもつ人特有の華やかさや屈託のなさがあり、それがフジテレビアナのイメージとしてふさわしいということもある。さらに話題づくりにもなる。

とはいっても、筆者は諸手を挙げて賛成するわけではない。

そのような採用を続けることの問題点は、フジテレビが「特別な人の、特別な人による、特別な人のためのテレビ局」であり、まるで特権階級のインナーサークルを公共の電波で誇示しているような印象を視聴者に与えかねないことである。

背景にあるのは社風である。詳しくは拙著「フジテレビはなぜ凋落したのか」(新潮新書)で述べたが、ひとつには「仲間意識が強く」、人と人との「つながり」を重視するということが挙げられる。

【参考】<『フジテレビはなぜ凋落したのか』著者が指摘>テレビがスクープをとれない原因は蔓延する「横並びで安心する空気」

【参考】炎上ブーム時代のテレビ作り『だからデザイナーは炎上する』

入社式はその一例。今年も「父母同伴」で行われた。筆者が入社した30年前もそうだったが、小学校の入学式でもあるまいし、世間の感覚からすればやはり違和感がある。これはフジテレビには「仲間」や「家族」といった「つながり」を重視する社風があることの証である。

だからこそ、著名人との「つながり」も大切にしている。こう表現すると確かに聞こえはいい。しかし、出役に有名人の子供ばかりを採用しているとフジテレビは、世間の日常感覚や生活感情からズレた「特別な人」たちの集合体とみられてしまうのではないか。

フジテレビが転落した原因の一つは「世間の感覚とのズレ」である。こうした採用活動にも世間とのズレを感じてしまう。

フジテレビ復活は、このズレを徹底的に検証することから始まるのではないか。

 

【あわせて読みたい】

The following two tabs change content below.

吉野嘉高

吉野嘉高(よしの・よしたか)広島県生まれ。1986年フジテレビ入社。情報番組、ニュース番組のディレクター、プロデューサーを歴任。2009年、フジテレビを退社。現在、筑紫女学園大学現代社会学部教授。著書に「フジテレビはなぜ凋落したのか」(新潮社)など。