<芸人の素人イジりに疑問>地上波テレビに強まる「閉じた」感覚[茂木健一郎]


茂木健一郎[脳科学者]

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「クイズ・タイムショック」(テレビ朝日・1969〜1986)で、田宮二郎さんが司会をされていた頃の動画を見ると、ほんとうにびっくりする。ごく普通の一般の方が出て、回答されているんだけど、田宮さんの接し方が、丁寧で、リスペクトに満ちているのだ。

「ぴったしカン・カン」(TBS・1975〜1986)でも、一般の方が出ていらしたように思う。それで、この頃(テレビの黄金期)の番組作りでは、一般の方が、そのまま、ごく普通のキャラクター、というか、等身大のまま出ていらっしゃるのだ。

それがいつからか、テレビは、芸人さんが、一般の方(「素人」)をいじる、というような作りになってしまった。そもそも「素人」という言い方が、ちょっと見下しているように思う。芸人さんは、いつもテレビにいるんだから、慣れているのは当たり前だ。

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いつも自分たちがいる場所に、一般の方が来た時のとまどいや、不慣れなことを、田宮二郎さんだったら、端正に、人間と人間として向き合って接せられたと思うのだけれども、いつしか、芸人さんは「いじる」ことで笑いを成立させるようになった。

結果として、テレビはバラエティを中心に、芸人がお互いをいじりあい、そのいじることに適応できるような顔(仮面)を器用につくれる人たちの場所になった。かつての「クイズ・タイムショック」のような、等身大の人間がいる場所ではなくなった。

地上波テレビの「閉じた」感じが、強まっているように思う。それは、その「クラブ」に入っている芸人さんたちが、ある符丁、内部コードで、いじりあい、空気を読み合う場所になっている。そのような「現場中継」を、一般視聴者は見させられている。

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一方、競争相手も増えてきている。HuluやNetflix、Amazon prime videoで、海外の良質のコンテンツを見ることができるようになってきた。そんな時代の変化の中で、日本の地上波テレビを見ない層が出てきたのは、当然のことだと思う。

かつてのテレビの黄金時代には、等身大の人間がいて、思わず手をとめるような迫真性があった。今のテレビはどうなのだろうか。作り手が一生懸命、良心的につくれば、必ず黄金時代は戻る。ただ、そのためには、自分たちの現状を見つめる、「メタ認知」がどうしても必要だと思う。

(本記事は、著者のTwitterを元にした編集・転載記事です)

 

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茂木健一郎

茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)脳科学者。株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所上級研究員。1962年10月20日、東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程終了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を出て現在に至る。「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究するとともに文芸評論、美術評論にも取り組んでいる。