<素人と玄人の「笑い」の違い>なぜ最近のクイズ番組には「素人」が出なくなったのか?


高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]

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クイズ番組の解答者は昔は素人であった。クイズ番組が少なくなったせいもあるが、素人が出なくなったのには様々な理由がある。

一つは素人が出ても面白くないからである。特に「お馬鹿な回答」を望む「キサゴン系」の番組では、笑える回答をする技術で玄人に全く敵わないのは自明である。さらに「お馬鹿な回答」をしたときに、プロならば、「バカ」と突っ込むんで解答以上の笑いを取ることが可能だが、テレビの大事なお客様である素人を「バカ呼ばわり」することは出来ない。

それから、もう一つ大きな理由は、経済的合理性である。テレビに出演可能なレベルの素人を見つけるには、膨大な人と費用と手間がかかる。これは避けなければならないのが今のテレビの現状である。

制作者側にも「楽したい」と言う気持ちがある。楽をするためには安全牌の玄人を使う。

ただし、筆者は、この「楽したい」という気持ちは別に悪いことではないと思う。疲弊しきって素人探しをしているテレビマンは探した時点で気持ちが萎えてしまい、本来の番組作りで力が発揮できない。

【参考】<芸人の素人イジりに疑問>地上波テレビに強まる「閉じた」感覚[茂木健一郎]

クイズ番組には素人が出なくなったが、見事な素人扱いをしている番組はある。以下のような番組だ。

  • 「鶴瓶の家族に乾杯」(NHK)
  • 「さんま玉緒のお年玉 あんたの夢かなえたろか」(TBS)
  • 「笑ってこらえて」(日本テレビ)

「鶴瓶の家族に乾杯」は、アポなしが売りである。突然往来で出会った素人と何のことはないトークをする。

鶴瓶さんに、特に笑いを取ろうという意識は働いていないから、普通の素人が輝く。普通はこうだよなあ、と思わせてくれるので見ていると安心する。

「さんま玉緒のお年玉 あんたの夢かなえたろか」は素人扱いには定評のあった「からくりTV」のスタッフが立ち上げた特番である。

「ご長寿早押しクイズ」や「からくりビデオレター」で、ディレクターたちは腕を鍛えた。ここでの出演素人は、「夢かなえたろか」の場合で、4、5000人のインタビューから7、8人が選ばれる。

選ばれた素人は「良い素人」である。笑いの制作者にとって「良い素人」の第一条件は「自分を面白いとは思っていない人」である。自分から、これ面白いでしょ? と「ネタを言いに来る」つまり出しゃばってくる素人は出演することがない。

こうして選んだ素人は時として爆発的な笑いを生む。「ご長寿早押しクイズ」であるおじいちゃんが、

「アニメアルプスの少女と言えば、主人公の名前は?」

という問題を出されて早押しボタンを押した。

おじいちゃんの答は「アリラン」。筆者はスタジオのイスから転げ落ちた。この答は、玄人だと思いつきはするが、言うのに逡巡してしまう答だ。受けるかどうか分からないからだ。

ここに素人と玄人の違いが出る。素人は何の迷いもなく思いついたことをすぐ言うから間が早い。早いから笑える。素人は間が使えないとも言える。

対して玄人は高速のコンピューターのように頭の中の笑える答えを検索してから答える。この時、間を使う。間を使っているから素人より遅いが、確実に笑えるタイミングで答えを出す技術を持っている。安定している。ただし、遅い分、笑いの爆発力は弱い。

素人扱いが笑いになることをテレビ制作者に知らしめたのは、やはり欽ちゃんである。欽ちゃんの素人扱いは突っ込んで笑い取るよりも、拾って笑いを取る方法であった。

よく見て耳で聞いて、素人の言ったほんのちょっとの動きや喋りを拡大して誇張して視聴者に知らせる。そして必ずフォローする。

最近はこのフォローをしなかったり、フォロー部分を編集でカットしていたりするから、そういう素人を見ると筆者は気分が良くない。

かつて筆者が「王様のブランチ」(TBS)を立ち上げたとき、海砂利水魚(現・くりぃむしちゅー)を中継リポーターに起用した。たくさん素人がいるイベント会場だったと思うが、上田くんも、有田くんも自分たちのネタをやるのに夢中で、客を少しもいじらない。

本番が終了して筆者は2人に会いに行って言った。

「拾うところがいっぱいあったのに、どこも見ていないのはよくない」

と言ったのだが、これは演出家がやる範疇の仕事で、出しゃばり過ぎだったかも知れない。そもそも、海砂利水魚の立ち位置を誰も演出していなかったのだろう。ディレクターは演者に「○○をやってくれ」と指示はするが、どういう立場でやれば良いかまで指示する「出来る人」はそう多くない。

その立場さえ演出されれば優れた演者ならネタをやるのか、素人と話すのか、どれが仕事なのか。自ずと分かるはずである。今は2人とも押しも押されもせぬメイン司会者である。

【参考】<クイズ化するテレビ>見る人に休む間もないほどの大量の質問をする日本のテレビは全てクイズ番組になった?

さて、前段で挙げた3つの番組は「素人扱い」に長けた演出家が担当している。しかし、それ以外では荒っぽい素人扱いが目に付く。

筆者が一番嫌に感じるのは「仕込み」が見え見えのものだ。「仕込み」は素人を出演させる以上必ず必要な演出である。「ヤラセ」とは全く違う。「仕込み」と言う用語が誤解を生むのであって、これは稽古であり、リハーサルである。どうせなら「仕込み」がわからないよう気持ち良くだまして欲しい。

昔の演芸場では素人をいじるのは「客いじり」と言って他の芸人から蔑まれた手法だ。「客をいじって笑いを取るなら素人でも出来る」という蔑みである。

「素人扱い」などと言葉を変えてもこれは「客いじり」に違いないのだから、どうせやるならプロにしか出来ない「客いじり」をしようと思う。

 

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