記録メディア全盛の時代に考える「ほんとうに大切なことは記録できない」ということ[茂木健一郎]


茂木健一郎[脳科学者]

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たとえば、とてもおいしいものを食べたとして、その「おいしさ」自体を記録することはできない。将来的に技術が進んだら、というような話はできるけれども、とりあえず今はできないし、将来もできるとは限らない。

「感動」も記録できない。なぜならはそれは個人的なものであり、複雑なパラメータに依存し、しかも時間的には一回性のものだからである。その感動を与えた風景なり、公演なりは記録できるかもしれないが、「感動」は記録できない。

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感覚にせよ、思いにせよ、「ほんとうに大切なことは記録できない」ということは、この記録メディア全盛の時代において、よく考えておくべきことだと思う。たとえば、大切な日の思い出も、ほんとうに重要なことは、どんな方法を使っても、記録できない。

以上の考察から導かれる帰結は二つである。一つは、「今、ここ」の感覚や感情を、よく把握しておくこと。マインドフルネスは、この領域に属する。

もう一つは、上手に思い出すこと。自分の今までの人生での、エポック・メイキングな出来事を、ときどき、上手に、思い出して見ること。それ以外に、ほの暗い過去から、自分の今を照らしだす光源を取り出す方法はないのである。

(本記事は、著者のTwitterを元にした編集・転載記事です)

 

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茂木健一郎

茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)脳科学者。株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所上級研究員。1962年10月20日、東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程終了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を出て現在に至る。「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究するとともに文芸評論、美術評論にも取り組んでいる。